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ロバート・ローレンツ『人生の特等席』

ロバート・ローレンツ『人生の特等席』を観た。

グラン・トリノ』をもってして役者引退宣言をしていたクリント・イーストウッドの主演復帰作。更に脇を固めるのがエイミー・アダムスジャスティン・ティンバーレイク、監督のロバート・ローレンツイーストウッドの弟子のようなもの、というわけで見る前から75点は約束されていたわけですが、期待をちょっと上回ってくる良作でした。
原題は『Trouble with the Curve』という事で、カーブボールという変化球に人生の侘び寂びを託す、その脚本の感覚がいい。ようは「俺は変われるんだ!」って事!「小便カーブ」なんて言葉もあるが、映画の冒頭は「チョボチョボ」というキレの悪いイーストウッドの小便の音で始まる。この作品は音の映画なのである。その音とはイーストウッドのしゃがれた声だ、と言ってもいいのだけど、とにかく色々なモチーフが音に託されているのだ。イーストウッドのトラウマは生々しい馬の走る音に、エイミーの仕事のしがらみは携帯の着信音に、イーストウッドとエイミーの絆は「You Are My Sunshine」のメロディーに、エイミーとティンバーレイクの若さはビリヤードの「ガコン」、ご自慢の車の「ブルルン」というエンジン音に、そして2人のロマンスは床を足で叩くクロッキングというダンスの音、湖の飛び込む「ドボン」という音に託されている。これはかなりグッときました。当然、物語を動かすのも、バッティングの音、ピッチングの音である。目で見ること、そしてそれ以上に耳で聞く事の重要性を説く作品のわけだが、それに呼応するかのように、この映画はサラウンドに聞こえてくる録音は素晴らしいのだが、いささか目で見る喜びに欠けるのが難点か。カメラは最近のイーストウッド常連のトム・スターンらしいのだけど。歩くシークエンスはどれも魅力的だった。特にお気に入りはモーテルの部屋に帰る時のイーストウッドとエイミーの歩み。おそらく批判の対象になるであろうハリウッド的なご都合主義な展開も個人的には笑えてよかった。なかなかにオススメでございます。