青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

「だるま屋餅菓子店」のエンターテイナーについて


埼京線十条駅の商店街にあるだるま屋餅菓子店の有名なかき氷を食べた。かき氷の概念を覆す一品である。このヴィジュアルからして、硬くてシャリシャリしたものを想像するわけですが、フンワリと口の中で溶ける。それはもう羽根のように柔らかい。この氷を削り上げるのは、相当な技術力が必要なのでは。まず、「かき氷」と聞いて連想する、あの「ガリガリ」という音が聞こえてこないのだ。どう削っているのだろう。かき氷というのは夏ではなく秋から春のほうが美味しいのだそうだ。理由は単純。夏は気温が高く、氷がすぐに溶けて再結晶化してしまうからだ。気温の低い季節であれば、削ったそのままの食感を楽長くしめる。この店のおススメは抹茶系だ。宇治金時の抹茶は高級感溢れる深みある味わい、その苦味と餡子の甘さとのコントラストが楽しい。なんと特選宇治金時はお値段が1,000円を超えるが、その価値は充分にあるだろう。


しかし、何より衝撃だったのはこの店の2代目のトークである。ちょうどお客が他にいなかった為、マンツーマン指導という感じで延々と喋り倒してくる。その口上がとにかくあっぱれで、とにかく見事なプラセボ効果を生んでくれます。「最初に断っておきますが、うちの宇治金時を食べて他の店のが食べれなくなったら、ごめんなさいね」と始まり「逆に聞きます、この宇治金時より更に美味いかき氷って食べたいですかね?」「もっと美味しいのは作れるんです。けどもうそれは誰にも理解できないレベルの味になっちゃうんです」とくる。


更にトークはあらゆるジャンルのグルメに広がり、「焼肉は美味い店で食べてしまうと、安い店の肉はゴムにしか感じられない」「5,000円の焼肉食べるなら、2回行ったと考えて10,000円の焼肉を食うべき」「さっきも都内トップクラスの焼肉屋の店主が来てたんですけどね(意味不明)」「居酒屋なんかで酒を飲んではダメ、飲むなら蕎麦屋。4,000円で最高に満足できます」「ケーキ屋はブランドでなく作っている人で選ぶべき」「どちらにお住まいですか?美味しい店紹介しますよ」「お茶ならまかせて欲しい。どんな先生も手に入らない世界トップクラスのお茶を持っている」「9ヶ月予約待ちしたミシュラン3つ星の店に行ってくる。1人30,000円。でも、きっとお客にも、そして僕にも理解できない味なんだと思う。本当に美味い料理ってのはそういう事なんです」「舌を鍛えていきましょ」・・・これぞパンチライン製造機だ。昔の『クイックジャパン』とかが取材に来そうなレベルではないか。「小山田圭吾“謎のレコード屋”潜入30000字ルポ」を思い出しました。そして、とにかくひたすら喋りまくった後、「では、今日はありがとうございました」とお辞儀をして、店から姿を消したのです。エ、エンターテイナーだ。不思議な高揚感に包まれながら店を後にしたのでした。


<追記>
後日、再訪した際に二代目から発された語録を残しておきたい。「うちの事は結構勉強して来られました?」から始まり、「抹茶は特選の更に上の極上があります。本当は更に上があるんですが、お店で出せるのは極上まで」「このかき氷を食べてしまうと不幸な世界が待ってますよ。意味わかります?」「つまり、他の抹茶は食べられなくなるという事です」「僕は変態と呼ばれるほどの抹茶狂いですから、国内最高峰レベルのお茶関係者と繋がりがあるので」「まぁ、ここまでくると商売じゃなくて趣味ですね」・・・最高だ。