青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

西谷弘『任侠ヘルパー』

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2009年に放映していたフジテレビのドラマ版『任侠ヘルパー』はチェックが漏れていたのだが、この劇場版には度肝を抜かされてしまった。三池崇史悪の教典』においては伊藤英明が闇雲に何発も銃を撃ち放とうと画面が躍動してこなかったわけだけども、このヤクザ映画でありながら一発とて銃が放たれる事のない『任侠ヘルパー』はどんな銃撃戦よりも興奮を約束してくれる活劇だ。建物の空間を存分に活かしたアクションとカットの繋ぎ。そして、それを牽引する草なぎ剛の身体と顔がとにもかくにも素晴らしい。躍動する身体をバックから俯瞰で捉えて、反転して映し出される強烈な顔の力。この切り返しショットの快感にウットリ。これが本当にあの「一本満足男」なのか。脇を固めた風間俊介夏帆もこれまでのパブリックイメージを裏切る好演だ。


冒頭のコンビニ前からの草なぎ剛の疾走。そして、刑務所で行われる野球(『アウトレイジ』ではないか!)で魅せる堺正章のみっともないまでの盗塁。この2つの運動に導かれ、草なぎ剛はとある田舎町に辿り着く。そして町の権力者を一掃し、トンネルを抜け町を去る。この構造からして、おそらく西谷弘の頭にある草なぎ剛像は任侠映画における”高倉健”ではなく、西部劇における”クリント・イーストウッド”であろう。イーストウッドの傑作『ペイルライダー』(1985)のける牧師を介護師に変換させ、シネコンサイズの物語で展開させた、それがこの劇場版『任侠ヘルパー』なのではなかろうか。西部劇にける馬の役割も草なぎ剛が背負い、彼はとにかく走る。


視線の運動を丁寧に撮る映画でもある。この作品において何度”盗み見る”という行為が映し出されただろう。必ず画面の外から事象を見ている者がいる。それに呼応するように画面の外の音を丁寧に差し込む録音が素晴らしく豊かだ。ハイライトは窓と道を挟んだだけだが、確かに”対岸”のような場所で、視線を交わし、手を振る草なぎ剛草村礼子のシークエンスだろうか。それをうれしそうに見つめる安田成美に同調するようにして、観る我々の瞳を濡らす。また、光の具合も素晴らしい。「うみねこの家」の庭に落ちる影の見事さ。ここは突如浮かび上がった異空間であるのだ、という映画的説得力を持っていた。ナイトシーンでは路面はしっかり雨で濡れ、街灯や信号が美しく画面を照らしている。シーンの省略と繋ぎの具合も絶妙、だれることなく2時間以上の上映時間を締めていく。


監督の西谷弘は『アマルフィ 女神の報酬』(2009)、制作の亀山千広は『踊る大捜査線』シリーズと、映画ファンには悪名高い存在として知られるが、このタッグへの印象を完全に覆す傑作。いや、実の所、西谷弘のフィルモグラフィーは『県庁の星』(2006)、『容疑者Xの献身』(2008)とそのどれもが充実している。ついに最高傑作をものにした、というのが正しい認識だろう。今後も数々のビッグバジェットを手掛けて頂き、邦画界に革命を期待したい。