青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山川直人作品集

山川直人の全作品読み直しが終了した。やはり1番好きなのは短編集『口笛小曲集』だろうか。

口笛小曲集 (ビームコミックス)

口笛小曲集 (ビームコミックス)

前に書いたけども「金曜日」という短編をこよなく愛しているのだ。ただただ生活のディティールをつめていくだけで、浮かび上がる叙情性にウットリする。下駄の鳴らす音やお風呂上がりに缶ビールを飲んで鳴る「グビッ」すら愛おしい。山川直人は擬音も楽しくて、チャイムの音はいつも「チンポーン」だ。「この星の空の下」は発想が北野武HANA-BI』のようである。「バスタオル」における、大洪水が起きてしまい、40日も会っていない彼女の家まで溢れる水の中を泳いで行くというあの雰囲気もたまらない。彼女の部屋はマンションの2階だか3階で、水に乗って直接ベランダから上がるわけです。こういう所がいいですよね。「脱皮」の発想の豊かさにも打ちのめされる。これもディティールが実に詰まっているので、まるで本当の事のような嘘なのだ。『口笛短編集』で魅せたこれらの短編の上手さは更に研ぎ澄まされて『コーヒーもう一杯』で実を結んでいて、「コーヒー縛り」というイメージで読まれてしまう事が惜しいくらいに豊かで多彩である。
コーヒーもう一杯 V (BEAM COMIX)

コーヒーもう一杯 V (BEAM COMIX)

街が静かに音楽を奏で出すような構成も素晴らしい。その手法に特化したのが唯一のエンターブレイン以外からの作品『ハモニカ文庫』
ハモニカ文庫 (まんがタイムコミックス)

ハモニカ文庫 (まんがタイムコミックス)

だろうか。これぞ街の漫画。ときに山川直人は練馬在住という事だが、作品の街の背景によく内観堂薬局が出てくるので、氷川台あたりにお住まいなのでは、と想像している。それに西武線の匂いもしてくるんだよな。そうそう、初期の代表作『シアワセ行進曲』
シアワセ行進曲 (BEAM COMIX)

シアワセ行進曲 (BEAM COMIX)

とかもねぇ、いいんですよねー。ちゃぶ台を買ったから同棲を始める、という導入の秀逸さ。同棲を始める→ちゃぶ台を買うでなく、ちゃぶ台を買う→同棲を始める、というこういう流れが実は脚本づくりにおいて非常に重要で、豊かさにつながるのではないか、と思います。山川直人の漫画は半年に1回は全て読み返す、という習慣を持つくらいに愛している。必ず読む、と書いて必読!