青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

五反田団『すてるたび』


五反田団『すてるたび』の再演を観てきた。五反田団は主催の前田司郎の実家が「アトリエヘリコプター」という劇場になっているので、わりとフラットに代表作の再演を行ってくれるのだ。自ら代表作と謳っている『すてるたび』ですが、紛うことなき傑作。椅子4つと身体4つ、それだけを使って「見立て」を駆使して、めくるめく夢世界を展開していく。演劇の凄味、そしてプリミティブな喜び、というのを真っ当に体感できる作品だ。「見立て」の不確かさが、世の中のフレームを1つずつはがしていく。色濃い生死と性愛の匂いに酔いながらも、巧妙に配置された脱力したギャグにゲラゲラ笑っている内に、気づけば「父殺し」だの「母体回帰」だの神話じみたプロットまで体感している事に驚く。そして、この世界の圧倒的な”不確かさ”に気づかされ、また人間の意識の可能性に胸が躍る。世界なんて1枚の布のようなものだ、というような気づき。素晴らしき演劇体験である。こんな事を無茶苦茶軽やか(に見える)にやってのけるのだから、やっぱり前田司郎は孤高の存在だ。演者の黒田大輔も唯一無二にして至高である。