青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

北野武『アウトレイジ ビヨンド』


海から釣り上げられ、中から液体があふれ出す、見るからに不穏な、ヌメっとした黒塗りの車。そこに赤くで浮かび上がる「OUTRAGE BEYOND」の文字。とにかくこのカットがこの作品を象徴しているように思う。ようは、黒に浮かび上がる赤だ。ハワード・ホークスの傑作『暗黒街の顔役』から着想したのではないかと思われる「殺し方博覧会」といった体裁の前作『アウトレイジ』以上に死体の数は多い。しかし、今作の暴力からはユーモラスさが削がれており(強いて言えばバッティングセンターのシーンは前作を想わせる)、無機質さが際立っている。また、話が進むに連れ、登場人物の思惑が絡まり過ぎ、観る者はどこに感情移入すればいいのかわからなくなる。映画からエモーションが消えてくるのだ。そうなると、柳島克己のカメラによる素晴らしき青黒い画面に身を沈めるしかないわけだが、そのモノトーンの中(大友のスーツが白→グレー→黒と徐々に色濃くなっていくのも見逃せない)に、唯一活き活きとした”赤”が躍動している事に気づくだろう。感情から解放され、ただただ魅力的な運動としての暴力がまき散らす血の赤。その最大の担い手は、役名すらわからない(クレジットには「城」とある)ヒットマン高橋克典。彼が実に痛快な活劇を魅せてくれる。

彼は「面の割れていない野郎」だ。名前どころか顔すらない。一音ですら言葉を発しない何者かが画面で躍動している。ありきたりな形容だが、それは幽霊のようなものだ。もちろん、北野武演じる大友も幽霊の1人だろう。死んだはずの大友が舞い戻ることで、浮かび上がらせたのは、絆なき、愛なき、感情なき世界。確かなのは流れる血の”赤”だけである。ときに、今作には「裏切り」「大友の腹刺し」「木村の指詰め」「ドリル」「野球」など、前作からのモチーフのループがいくつか見受けられる。ラスト、すべての元凶とも言える男に大友が弾を撃ち込む事で、ループは崩れ去る。そして、アウトレイジ(怒り=感情)のその先(ビヨンド)へ。