青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

Liz Christine『Sweet Mellow Cat』

Sweet Mellow Cat

Sweet Mellow Cat

Liz Christineというブラジル在住の女性アーティストによる1stアルバム『Sweet Mellow Cat』が素晴らしい。スウィート、メロウ、キャットという文字列だけで、もう好みの音が鳴っている予感に満ち満ちているわけです。内容はというと、レコード屋で眠っていたような古いアナログ音源(ムード音楽、サウンドトラック、ラウンジミュージックとからしい)を集めてサンプリング、コラージュして作り上げたドリーミングミュージック。記録、記憶の再構築。レコードを再生する際のノイズ音とピアノがメロウに鳴っている。サンプリングされた音源はおそらくブラジルのレコード屋にはありふれていて、エサ箱に転がっているようなもの。しかし、そのレコード盤には制作者や、そのレコードを部屋で鳴らしていたかつての所有者の生活の記憶が、絶対に息づいているわけで、それらを蘇らせて、繋ぎ合わせて、新しい音を作り上げる。その行為に僕は必要以上のメロウネスを見出してしまう。例えば舞踏会のような音楽がサンプリングされた「C Caterina」なんて、いつかの誰かがこのレコードをかけて、部屋をグルグルと恋人と回って踊っていたのだ、なんて想像を喚起させるではないか。彼女自身の生活の音、飼い猫の鳴き声(キュート!)とか外の空気の音だとかが、もしれっと録音(記録)されているのもこのアルバムの大いなるチャーム。


リオデジャネイロ在住という前情報がそうさせるのか、港町の照りつける太陽の下で鳴るトロピカルビーチポップのようにも聞けてしまうのだけど、Liz Christineはアナログを収集したり、家で猫の声を録音したりしているようなナード気質(彼女のプロフィールにはルイス・ブニュエルだとかフランソワ・トリュフォーなんて文字が並んでいたりする)なわけで、そのビーチ感には、泳げなかったBrian Wilsonだとか、あの最高にイケてないThe Avalanchesの面々だとかの、憧憬としての海を想わせる。プロフィールにはグレタ・ガルボだとかマリリン・モンローなんて名前も挙がっていて、大変美意識の強い女性であることも見受けられる。そう、これはとにもかくも美しい音楽なのだ。