青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

Chilly Gonzales 『Solo Piano 2』


7年前にリリースされた『Solo Piano』は心のベスト10入り間違いなしの愛聴盤だ。美上がり切らず下がり切らず、感情の振り幅から解放された、どこでもない場所を鳴らしているような音。どこかまとまりがなく、たゆたう凪のような。何も考えたくない時間に流すのに最適の音楽。しかし、ヒーリングミュージックのようなものかと言われると、ちょっと違うのだ。あのアルバムはちょっとした”不気味さ”を醸し出している。鍵盤を叩く音まで生々しく録音されているのだけど、聞いていると、このピアノを弾いているのが生きている人間なのか不安になる。まるで幽霊がピアノを弾いているのではないかという気持ちになるのだ。どこでもない場所で、しかし、とても近くで。Gonzalesはあのアルバムにおいてちょっとした生と死を超越した彼岸に立って演奏しているように思えるのだ。現代のエリック・サティはたまたラヴェルなどと呼ばれておきながら、アルバムごとにエレクトロ、ヒップホップ、オーケストラなど、多彩にサウンドを使い分け、更にはBjorkDaft PunkJane BirkinFeistといったビッグネームのプロデュースも務めてしまう鬼才。天才が突如たどり着いてしまった彼岸で鳴らされたアルバムなのかもしれない。

Solo Piano

Solo Piano


そんな『Solo Piano』のまさかの続編がリリースされた。しかし、録音形態は似ているものの、別物として聞くのが正しいように思う。彼岸で鳴っているような音楽ではない。進行は複雑かつキャッチーで、楽曲としての完成度が前作より向上して(しまって)いる。聞く人の感情をリフトアップさせようという意志が感じられる、実に人間らしいアルバムだ。ミニマルなフレーズを主としながらも、時に感情的を叩きつけるように鍵盤が弾かれる。Gonzalesのピアノを弾く事への喜びが音から感じとる事ができる。個人的な好みと鑑賞耐久度で言えば圧倒的に前作という事になるのだけど、印象的なフレーズの多さで言えば今作に軍配が上がるだろう。

Solo Piano II

Solo Piano II