青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

わっしょいハウス『エーテル』


古い一軒家に共同生活する若い男女5人、それに管理人と犬。舞台は夏の京都。何やら「エーテル」と呼ばれる謎の生物が大量発生しているらしい。何かが起こりそうな予感に満ち満ちている。しかし、立ち上がる会話もロマンスもどこか空回りで、始まりそうで始まらない。花火は上手く打ち上がらないし、せっかくの観覧車にも乗る事はない。それらの空回りの循環運動は、「エーテル」という謎の生物に託される。彼らは秋の訪れと共にグルグルと渦巻きとなって、空の彼方に飛んでいってしまう。素敵な予感だけに満ちていて、結局のところ何も起こらない僕らの夏が「少し不思議」に見事に可視化されていた。


今までの作品同様に、時間軸と空間軸がねじている。今まさに体験している彼らと、それを振り返るように話し合う彼らが、同時に舞台上に存在しているのだ。初期作品ではほぼ1シチュエーションの中でその方法が行われていたのだけど、前作『まっすぐ帰る』からは、登場人物らは部屋から街へ飛び出している。軸は相当複雑に絡み合っているはずなのだけども、観賞の感覚はシームレスで快適だ。高い技術を要する脚本術である。そして、それに応える役者の技術も極めてレベルが高い。特に、椎橋綾那の演技メソッドの斬新さとキュートさには観る者全てが目を奪われるだろう。あの居心地の悪そうな表情と声と身体の動かした方は、時間軸と空間軸を移行するものにこそ相応しい。彼女こそ”時をかける少女”だ。劇団所属員ではないようだが、椎橋綾那の表情と浅井浩介の声が、わっしょいハウスという劇団のイメージを見事に体現しているように思う。