青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ホセ・ルイス・ゲリン『ベルタのモチーフ』『影の列車』


2010年に公開された圧倒的な傑作『シルヴィアのいる街で』という1本でもって、ホセ・ルイス・ゲリンは一躍、現代映画界の最重要人物に踊り出た。イメージフォーラムで開催された「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」も行列が巻き起こる盛況っぷり。その初日に『ベルタのモチーフ』『影の列車』の二本を鑑賞。


ベルタのモチーフ』は長く続いていく地平線と道の画、少女の現実と幻想の融解など、ヴィクトル・エリセを彷彿をさせる習作であった。ゲリンの長編デビュー作であり20年以上前の作品だそうだ。エリセの作品群より少女の年齢設定をやや高めにしてあり、エロティックさが際立っていた。ベルタのモチーフとは何だったのか。閉鎖された空間における円の運動であろう。自転車、車、少女の丸み、珈琲メーカー、扇風機・・・そして、三角帽のみが、円であり三角でもあった。『影の列車』は強烈な1本。「映画生誕100周年に向けた、光と影と音だけで作った個人的なオマージュ」という言葉にふさわしい、映像と音のマジックにまどろんだ。映画は、70年前に撮影された傷だらけに劣化した20分のファミリームービーで始まる。ラヴェルドビュッシーなどの美しいピアノ曲の伴奏と共に映し出される家族の幸せの風景。圧倒的な幸福感。もう存在しない人達。そして、映画は現在の時間軸に移り、フィルムに映っていた家族が住んでいた屋敷が映し出される。無人の屋敷に入り込む影や音。序盤のフィルムの幸福感と対比するように圧倒的な恐怖感でもって撮られる”影”に息を呑む。雨が降る。雨によって、これまで屋敷に染み込んだ記憶や音が再生される。序盤に観た、家族フィルムが様々な角度でもって繰り返し再生される。幸せな家族の風景とはまた別の側面(例えば密やかなロマンスなど)をあぶり出すかのように繰り返し再生されていく。音と映像の融解にすっかり陶酔感でいっぱいになっていると、気付けば画面には、もう死んでいるはずの人々の”生”があまりに活き活きと浮かび上がっている。これが映画のマジックだ。