青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

アキ・カウリスマキ『ル・アーヴルの靴みがき』

アキ・カウリスマキ『ル・アーヴルの靴みがき』を観た。

「老人と少年の交流」に「不治の病の妻」という鉄板のお涙要素、更には「移民問題」などのアクチュアルなテーマを備えていながら、バキバキに脱臼したいつものカウリスマキ映画である事に、グッと来てしまう。そう言われれば、アンドレ・ウィルムとカティ・オウティネンのあの可笑しな佇まいは脱臼している人だ。しっかし、この徹底したまで脱ドラマ性には感心してしまう。ドラマの展開される一歩手前で止めて、シークエンスを繋いでいくのでオフビートでありながら緩む事がない。そして、十八番であるわざとらしいくらいのあの照明。

市井のなんてことのない人々に常に優しく美しい光が当てられているのに涙する。また、靴磨きであるマルセルはローアングルから市井を見つめているわけで、いつものカウリスマキ以上に小津安二郎が細部に宿る作品になっていた。あの桜の色合いはどうだ。
「善意が起こす奇跡」とか「思いやりのリレーが〜」とか道徳の教科書のような感想を思わず漏らしてしまうような作品なのだけど、カウリスマキはそういう陳腐な言葉は使わない。見舞いの花束や手土産のパイナップルの赤や黄が、ラスト、イドリッサやアルレッティの着る服に連鎖していき、その色に希望や奇跡が託されている。映画という、現実と相互作用する虚構の中で、小津の眼差しでもって、とびきり愛に溢れた嘘をつく作品。傑作です。



余談だけども、我らがヒーロー、アントワーヌ・ドワネルことジャン=ピエール・レオが劇中唯一の嫌な奴と登場していてビックリする。相変わらず前髪を気にしていそうな佇まいに胸が熱くなりました。リトル・ボブの可笑しなかっこよさにはやられた。