青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

いなかやろう→HAPPLE『おかえり』


いなかやろうというバンドをご存知でしょうか。2007年にPERFECT MUSICからAxSxEプロデュースで1stアルバム『いなかやろう』を発表。2009年にハヤシライスレコードから吉田肇(panic smile)プロデュースで2ndアルバム『すばらしい日々』を発表。「21世紀のユニコーン」「日本海サザンオールスターズ」もしくは「日本のXTC」「日本のトッド・ラングレン」なんて評されるほどのソングライティング力。しかし、その並び評されたアーティスト群からもわかるように一筋縄ではいかない捻くれたポップセンスが魅力だ。生活のうれしい、かなしいを目一杯吸い込んだ浮き沈むポップソング、各パートのキャラ立ちした演奏、そして珠玉のコーラスワークを武器に、まつきあゆむ前野健太、おとぎ話、片想い、ceroなどと共鳴しながらシーンを盛り上げて行く!はずだったのだが、2009年に突然の活動休止。

いなかやろうは現在お休みしています。 理由は新しい音を作りたくなったからです。
そしていなかやろうで目指せばいいのかもしれませんが、新しいバンドで目指したくなりました。それでHappleというバンドを作りました。
(中略)
しばらくの間はいなかやろうとしてお会いできませんが、皆様どうかお元気で!またいつかお会いできる日を、それからHappleとして新しい素敵な出会いができることを楽しみにしております。

メンバーの変動はなし。改名というわけでもなく、新バンドとしてHappleを結成。正直言って「?」が浮かび上がる流れだった。いなかやろうのほうが名前としてキャッチーだし。とは言え、リリースされた2曲入りの音源を聞き、変わらぬ、いや、より洗練されたソングライティングにワクワクもした。2011年夏には、nauからまつきあゆむによるマスタリングで3曲入り音源『Happle in the morning』を500円で発売。

「なくなった」「そら」「星」と収録曲3曲すべてが、これまた珠玉のナンバーで、今後の活動を多いに期待を抱く。しかし、ほどなくしてベースが脱退し、ライブ活動が停止。これだけいい曲を作り続けているというのにどうにも波に乗っていかない。紆余曲折を続けるバンドに、人事ながら心を痛めていた。曲の歌詞に耳をすますと、

なくなった 心から
あるはずと 思ってた
どうしてもっと 大切にしなかった
思い出を トゥルララ

いつのまにかそらは  見えない
わたしは誰にも言えない
こころのみせかた しらない

哀しみのフィーリングが強まっているようにも感じた。このまま音楽活動を停止してまうのではないだろうか、という不安もよぎった。しかし、『Happle in the morning』のラストに収録されている名曲「星」では

何度も繰り返してた 例えばこういう話
「続いていくもの いかないもの」
僕を埋め尽くすものや 君を覆い尽くすものは
本当はどうでもいいことばかり
あのこは素敵な恋人の部屋へ 大事なものが全部あるのと
「心はいつでも変わってゆくものよ
考えたってわかりはしないのよ」
けど!
昨日の夜は永遠さきっと 今夜は君と一緒さずっと
昨日の夜は永遠さきっと 今夜は君と一緒さずっと
あの子はいつでも音楽を聴いている 大事な何かがここにはあるのと
今ここの景色も変わってゆくのかな 溢れないようにギターを鳴らそう

という諦観と希望の入り混じった決意が歌われている。これを信じよう。そして、3人編成となり登場したHappleのライブは一皮向けていた。

前進も後退も迷走も全て受け入れてひっくるめて愛すようなフィーリングが立ち上がっていたのだ。

4/30には3曲入り1stシングル『おかえり』が発売!表題曲はちょっと涙なしには聞けない名曲だ。

かわらないねぇ ぼくたち
いつも川のそばで行ったり来たりしている
かわらないなぁ ぼくたち
いつも約束しないで階段を降りたり上がったり
そこには何があるのかな ワクワクすることあるのかな
ねぇ?

紆余曲折を続けるバンド活動をなぞらえ、笑いも涙も全て受け入れて楽しく音楽を鳴らすのだ、というバンドの所信表明に聞こえる。「自転車」で描かれるのは自転車を2人乗りするカップル。一見仲睦まじいその2人はこれからお別れをする2人なのだ。そんな事は誰も知らない。でも、実は世界はそういう風にできている。「うれしい」「かなしい」の感情どちらかに極端に振り切った所謂J-POPとは一線を画すポップソングがここにはあるのです。ここからHappleはいよいよ始まるのです。