青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

うつくしきひかり『うつくしきひかり』


ピアノと歌ナカガワリサ(ザ・なつやすみバンド)とスティールパンMC.sirafu(片想い、ザ・なつやすみバンド)のデュオからなるうつくしきひかりの1stアルバム『うつくしきひかり』が発売された。新しいアンビエントミュージックの誕生だ。神戸市塩屋の旧グッゲンハイム邸にて録音。

こちらは歴史的建築物でありながらも街の風景である事を選択し、一般に開放され、ライブ、イベントなどでの利用も可能な施設だそうだ。録音エンジニアはテニスコーツ『ときのうた』も担当した西川文章。ピアノとスティールパンのぶつかり合いを最良の形で拾い上げる素晴らしい仕事である。ドアの開閉音、足音、階段の軋み、窓の外からこぼれてくる声、生活の音を、街の記憶を、めいっぱい吸い込んで鳴らされたピアノとスティールパンのアンサンブルの心地よさは1級品のアンビエンスだ。まだ半分夢の中な早朝、暖かい日差し立ち込める昼、チルしていきたい真夜中、どんなシーンにもはまってくれる環境音楽。そして、うつくしきひかりが新しいアンビエントミュージックと言えるのは、ポップスとしての強度を持った歌と言葉がそこにあるにも関わらず、なお環境音楽として成立している点だろう。片想いやザ・なつやすみバンドでもいかんなく発揮されている2人のポップソングライティング能力はこのアンビエントミュージックにおいてもぶれる事なく強く美しい。そして更に驚異的なのは、アンビエントでありポップスであるこの音源はコンセプトアルバムでもあるという事だ。冒頭「うつくしきひかり」から最終曲「夜」は朝から夜までの時間の流れを描いている。

呼びかけよう 始まりの言葉 おはよう 君に やっと会えたなんてね

と歌われる「うつくしきひかり」は朝の訪れと共に生命の誕生を祝福しているようでもある。そして、「黙祷」「セカンドライン」という曲を経て、これはいなくなってしまった人達送り出すために人生を鳴らしたアルバムでもあるのではないかと気付きハッとする。

騒ぎ出す虫達 風と君と美しい光 
全てを吸いこんで 音にしたらね 君はどんな顔するかな

風が騒いで街を揺らせば ぶつかり合う 記憶も匂いも 
抱いて持って帰ろう それで飾ってみる

私たちの生活に針を落としたらどんな音がするのだろう。過去も現在も未来も、喜びも悲しみも、鳥や虫の鳴き声、風も光も全て吸い込んで音にしたならば、そのメロディーはセカンドラインニューオーリンズ発祥の葬儀のパレード)のように「ここにいない人」を追悼し、「ここにいる人」に一筋の希望を与える。

傷つけ合う すれ違う 言葉になれない事
こっそりと祈ってるよ 綺麗事じゃなくて

エリック・サティの提唱した「生活の中に溶け込む音楽」=「家具の音楽」という思想は、ここ日本、東京にてうつくしきひかりという新しい形で実を結んだ。ぜひあなたにも聞いて欲しい。

うつくしきひかり

うつくしきひかり