青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

□□□『マンパワー』

口ロロ(以後、クチロロ)のニューアルバム『マンパワー』を愛聴している。

マンパワー

マンパワー

15分近い楽曲が2曲も収録されていると聞いて、かなり聞きづらいのではと構えていたのですがアルバムとしてのランタイムはパシっと40分台に収まった日常に馴染む盤となっております。やはり特筆すべきは、三浦康嗣が音楽を担当した劇団ままごとの傑作『わが星』のワークショップ参加者のボイス(ラップ)を録音し、自身のキャリア屈指の名曲「00:00:00」をベースにコラージュして作り上げた「いつかどこかで」だろう。

これは傑作であります。例えば夜に遠くにあるマンションの均等に配置された窓からの灯りを見ていて「あの一つ一つにそれぞれの生活があるのかぁ」と感慨にふけったりした事がおそらく誰にもあるのではないかしら。それが可視化されたのがTwitterだったのかな、と思っている。そして、あの感覚を音楽にしてみたのが「いつかどこかで」だ。何でもないようなつぶやきだけどどれも実に愛おしい。私たちは常に絶え間ないビートに乗っかっている。時計の秒針でも心臓の音でも呼吸でも歩く事でも何でもいいのだけど、とにかくビートの上に乗っかって歌っているのが私たちの生活なのだ。その刻みは誰にも何にも阻害されてはならない、という放射線下での生活に対するクチロロの意思表明にも感じる。そんな放射線下の生活を

放射線は 風に乗って 雨になって 君の髪を濡らす
僕はそう 笑いながら やさしく その髪の撫でる

と歌う「合唱曲 スカイツリー」も秀逸だ。こちらも劇団ままごとを彷彿させる演劇チックな1曲。

環状線が、放射線が、束になって、輪になってできている、そんな東京での暮らしの小さなセンスオブワンダーがスカイツリーに収束されていく様が圧巻。
アルバム『everyday is a symphony』

everyday is a symphony

everyday is a symphony

でも生活音のサンプリングやフィールドレコーディングに挑んでいたけれども、やはりクチロロがやろうとしている事も「東京の街が奏でる」なんだと思う。もはや本人は嫌がるかも知れないが三浦康嗣はいつだって小沢健二の継承者であった。
7年前の2ndアルバム『ファンファーレ』
FANFARE

FANFARE

収録の名曲「朝の光」での

止まった時間の中 本当に本当の事 そして完全な幸せ!

「渚のシンデレラ」での

海沿いカーブ ハンドルを切ったその先
水平線 光る波 恋がはじけて 追いつけっこないスピードで

など恥ずかしくなるくらいのフォローワーっぷりだが、4thアルバム『TONIGHT』

TONIGHT

TONIGHT

収録の表題曲でのディズニー映画とビートが組み合わさった一大ミュージカルシンフォニーの中で

サッチンと繋いだ手の温もり あの時の朝の光 特別な感じ
ドライブ 寿司 首都高の灯り
渋谷 カーティスのレコード 遠くの子供の声
真夏のビール ピアノの音色 正月の西新宿のビル街 モノポリー
海 クラブ セックスの後の蝉の声
真夜中のコンビニ そういやエロ動画消してねえし!
今更だけど 調子良すぎるけど
強く強く強く本当に思う 死にたくない!

なんていう風に幸せの定義を具体性で灯す言葉の乱れ打ちのオリジナリティに、これはもうオザケンフォローワーだなんて嘲笑している場合ではないと皆が気付きだした。サウンドは作風を重ねる度に変化し複雑化していき、前作『CD』

CD

CD

では比較としてコーネリアスの名前も挙げられるような地点に到達していた。とは言えこの解散しなかったフリッパーズギターことクチロロはどうにもアルバムに課したコンセプトを最後まで徹底する事にせず、超傑作をモノにできていない。代表作を挙げろ、と言われても答えあぐねてしまうのが現状だ。そんな中、今作は『マンパワー』は超傑作とまでは言わないもののに、クチロロとはどんなグループか?と聞かれて差し出すアルバムが1st『クチロロ』に続いて完成したのではないだろうか。フロントマンの三浦康嗣ほとんど歌ってませんけどね!