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スティーブン・スピルバーグ『戦火の馬』

スティーブン・スピルバーグ『戦火の馬』を観た。

観賞後、興奮と涙に包まれてすっかり満たされた気持ちになる。傑作。スピルバーグが今本気を出すとこうなるのか。エグゼクティブプロデューサーを務めた『カウボーイ&エイリアン』でも見られた傾向が完璧な形でお目見えである。映画とは地平線を、空を、夕日を、そして馬を撮る事なのだ、というジョン・フォード黒澤明を思わせる古典的な志。そこに最新の技術が加わり、構図、カメラ、照明、音、などの細部が満たされていく。

エミリーの祖父の話す「伝書鳩の勇気」が象徴するように、真っすぐ前を見て家に帰る映画である。誰もが馬と共に真っすぐに進んだ。その中で瞳が傷ついた者、命を落とす者もいたが、彼のその運動が画面にエモーショナルをもたらす。そして、その運動の中心に据えられるのが馬である。美しさや気高さや友愛や命の重みや人々の理屈を超えた感情などが1頭の馬の運動に託される。戦場を駆け抜けた馬に絡まった有刺鉄線を戦闘中のイギリス兵とドイツ兵が協力してワイヤーカッターで1つずつ外していく、額と足元の汚れの黒をふき取ってやり白を取りもどす、という行為にはそこで起きている事以上の美しさが画面に満ちており、映画の力にうならされた。