青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

カメラ=万年筆『coup d'etat』

カメラ=万年筆『coup d'etat』

coup d'Dtat

coup d'Dtat

ポップシーンに現れる何度目かの2人組の天才。

「カメラ=万年筆」というのは、ムーンライダースが1980年に発表したアルバムタイトルであり、その引用元であるフランスの映画理論である。砕いて言えば映画における映像とは物語の言いなりではなく、作家が筆で思想を書き記す言葉のように柔軟で重要なものである、という理論で、更には映画とは作家の思想を保存できるものなのだという主張に発展する。ではそんな理論をユニット名に冠した彼らが音楽によって保存したいものは何か。それはある意味彼らの思想と言えるのかも知れない、愛すべき映画、文学、漫画、アニメ、ゲームなどの様々なカルチャーではないか。彼らの脳内にある膨大なそれらのクロスオーバーを、アカデミックと呼ばれるまでに計算されつくされた音楽に落とし込んでいる。めまぐるしく展開していく複雑な楽曲構造に膨大な情報と音符、3分〜5分の楽曲を聞く体感時間はその倍以上と言っていい。アルバムを聞き終えて時計を確認し、30分もたっていない事に何度だって驚くだろう。この感覚はちょっと新鮮だ。かと言って冗長で重苦しいかと言うと、「ポップ!」の一言で片づけてしまいたくなる愛くるしさもある。この手さばきは偉大なる先人の監督、作家のように柔軟かつ優雅で、楽譜=カメラ=万年筆と呼びたい。
前評判から、よくてできたシティポップスバンドのようなものを想像していたのだけど、いざプレイボタンを押してみると名刺変わりだ、と言わんばかりに多種多様な楽曲で埋め尽くされていた。恐ろしいのは例えば野宮真貴がボーカルを取るM-4「降り止んだ雨には悪意が満ちる」のような全うなポップチューンで埋め尽くされた、かつてキリンジのポジションに居座れるような、そんなアルバムを作る事もその気になれば可能なのだろう、と容易に想像できる所だ。
22歳という若さと、「オタク」と揶揄されかねないその緻密で雑多な情報量から、「YouTube世代」なんて呼ばれてしまうのかもしれないけれど、世代論で括ってしまうのは失礼というものだ。こんな音楽はYouTubeで育とうと作れるものではない、天才的なカルチャーラヴァーだからこそ作りえた傑作アルバムだ。