青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

フランシス・フォード・コッポラ『テトロ』


美しい陰影を魅せるモノクロの画面を持つこの映画は、「光」を当てる事についての作品だ。主題と映像の見事なまでの共存に震える。しかし、大人気ないほどの技の応酬である。編集、音楽、照明とどれも一級だが、特に撮影が素晴らしい。カメラが上から下から斜めから、信じられないようなカットやショットを披露してくれる。冒頭、ベニー(オールデン・エーレンライク)がバスから降り、テトロ(ヴィンセント・ギャロ)の家に辿り着くまでの一連のショットの繋ぎだけでこの映画の充実が観てとれる。そして、なかなか姿を見せないテトロと、家に漂う異様な雰囲気。とんでもない事が始まりそうな予感の夜を超え、朝の美しい光と共にテトロはあっさりと姿を現す。そして始まる楽しき散歩。ここでは山中貞雄丹下左膳余話 百萬両の壺』、ジム・ジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイス』よろしくの横移動まで飛び出す。そして、2人はフェルナンド・エインビッケ『ダック・シーズン』のように画面に並列に収められてソファーに座ったりするのだ。


脚本にも舌を巻く。終わりそうになってもなかなか終わらない、幾重にレイヤーされた重厚な血の物語。アーヴィングの小説を1本読んだかのような満足感。今、ここまで物語に向きあう映画監督はなかなかいないのではないか。物語の重要なモチーフである鏡と連鎖。彼らは一体何度鏡越しに会話し、鏡で過去を知り、一体何回交通事故に逢うのか!受け継がれる骨折、血だ。