青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ceroワンマンライブ『Contemporary Tokyo Cruise』

12/25(日)ceroのワンマンライブ『Contemporary Tokyo Cruise』が渋谷WWWにて開催された。WWWは東京のライブハウスの中でも比較的大き目の箱であり、ましてやクリスマス当日。人が閑散としてやしないか、とドキドキしながら会場の扉を開けると、そこにはキャパオーバーと言っていいほどの人、そして熱気で溢れていた。2011年の1月に1stアルバム『WORLD RECORD』を発表し、全国各地での精力的なライブ活動、更にはFUJIROCKのROCKIE A GO GOステージ等野外フェスへの参加、と着実にステップアップしていったceroの2011年の成果があの会場に現れていたのだろう。音源は聞いているけれどまだライブに足を運んだ事がない、という方のためにお伝えしておくと、現在ceroはアルバム収録曲以外に同等数の優れたレパートリーを有している。例えば、情景描写が素晴らしいポップソング「目覚めてすぐ」「ディアハンター」、キャッチーな山登りチューン「マウンテンマウンテン」、フィッシュマンズ「100ミリちょっとの」のフレーズが挨拶をしてくる「スマイル」、Lou Leed「Walk On The Wild Side」を引用した飛翔力抜群の「クラウド・ナイン」、James Blakeの来日ライブを彷彿させる重低音サウンドシステムを聞かせる「Vanishing Mind」、プログレッシブな展開で魅了する「大洪水時代」「船上パーティ」、そしてイントロが一音鳴るだけで会場が圧倒的な幸福感に包まれるキラーチューン「さん!」などなど。どれも『WORLD RECORD』収録曲に勝るとも劣らない多用な魅力の詰まった楽曲達。ぜひライブで体感して欲しい。


ライブは2部構成で、1部は一瞬で売り切れたアナログシングルA面「武蔵野クルーズエキゾチカ」で締められた。合間には片想い、ザ・なつやすみバンドの面々から成るサンタズなるユニットのクリスマスソングライブがはさまれ実にいいムード。そして2部が開始されると、大きなステージバックスクリーンに映像が映し出される。会場は大きな船になった。

一生有効年間パスが気付けばあなたのポケットにあるはず

年始のライブではまだどこか頼りなかったフロントマン高城晶平のパフォーマンスはこの1年を経て実に堂々とした我々を導く船長に成長していた。船は東京をゆっくり周回する。船上では音楽が鳴らされている。すると、船から見渡すいつもの街の景色が違った表情を見せてくる事に気づく。ceroの音楽は、どこか知らない遠い場所へ連れて行ってくれるものではない。僕らの街に、フトした瞬間立ち上がる空想都市のサウンドトラックだ。空想都市は窓ガラスに映りこむ風景を眺めるような些細な瞬間にだって現れる。街が、生活が、愛おしくなるような瞬間。観た人にしかわからない例えで申し訳ないのだが、ceroの音楽、そしてVJに映し出される街の映像に、台湾映画の傑作『ヤンヤン夏の思い出』でのエドワード・ヤンの東京に向ける視線を想起した。ceroは街を、生活を愛している。「ここではないどこかへ」という安易な逃避もなく、政治的な視点でもなく、日々を愛おしく奏でる意思にこそceroの音楽の強度があると思う。ライブは「大停電の夜に」「マクベス」「さん!」などいくつかのピークタイムを迎えた後、「good life」という穏やかな名曲でその航海の幕を閉じる。

夕暮れ時 タワーレコードのベンチに座って
話を 積もり積もる話を しまくっていたら
喉が枯れちゃったよ
なかなかいい日だったよ それだけで良い日だったよ

発売から2ヶ月後、奇しくも停電や節電を余儀なくされたこの街で、代表曲「大停電の夜に」の

普通の会話を愛している

このラインがどれほど心強く響いただろう。朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、ご飯を食べて、パーカーに着替えて、外に出て、本屋に行ったり、映画を観に行ったり。ceroの奏でるこういった事の全てが、僕たちがこれからを生きていく上での強い光だ。ceroを聞こう、生活を続けよう。