青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ままごと『あゆみ』


8人の女優が1人の女性を演じる事で、1人の人間の多面性、そして「こうだったかもしれない私」が見事に浮かび上がってくる。これぞ、演出と主題の幸福な結実である。私たちが選んだ道、選ばなかった道、選ぶことができた道、それら全てが可視化され、始まりと終わりの点を結ぶ無数の線は全て、大きな円の中にある。ここに辿り着くまでの、75分とは思えない膨大なエピソード。NHK教育テレビの青春ドラマのようなバタ臭さこそ柴幸男の持ち味だろう。ノスタルジアを叙情的に描写するさくらももこのエッセイ漫画のような巧さがあり、大衆的な普遍性で私たちの記憶に巧妙にフックをかけてくる。積み上げていくエピソードは全て、「歩く」「道を選ぶ」という運動に起因するものであり、ラストに向けて主人公の歩く1本の線に、円に、すなわち人生に集約されていく。柴幸男の書く戯曲は複雑でシンプルで強い。