青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

LIVE土井玄臣&中川理沙 in 中崎町common cafe


新大阪に着いたのち、いくつかの地下鉄を乗り継いで、「中崎町モンカフェ」というお店に足を踏み入れてみると、店内は美味しそうな匂いに包まれていた。土井玄臣がカレーや肉じゃがを作っていたのだ。土井玄臣は玉ねぎ使いの魔術師である。あのクリーミーなカレーの味が忘れられない。


ザ・なつやすみバンドの中川理沙名のピアノ弾き語りライブの素晴らしさときたら。ポップミュージックとしての強度を維持したまま最新のアンビエントミュージックを鳴らしている。食器と食器が当たる音すら音楽にとり込まれているようだった。そして、土井玄臣のライブ。闇を知っているからこその光の歌。歌い出すと空間がギュウっと締まる。対してトークは緩い。2ndアルバム『それでも春を待っている』がとにかく素晴らしい内容で、コンパクトながら名盤『んんん』のネクストレベルを鳴らしている。その気になればAphex Twinのような電子音アルバムやSatieのようなピアノアルバムも作れてしまうのだろう。でも、やはり歌の人だ。


ライブの翌日、土井さんに大阪を案内してもらった。「せっかく大阪に来たならショックを受けて帰ってもらいたい」というプランの元、西成〜飛田新地周辺をうろついた。衝撃を受けてしまった。駅すぐ近くのコンビニに入ったら、「ここで薬を打たないでください」という張り紙が。50円の自販機、1泊1000円の宿、「生活保護」「結核」という文字が躍る通りにゾンビのような速度で歩く人、寝転がる人、酒を飲む人。そんな人々が集まる要塞のような職業安定所の中に曇天の空から無数の鳥が入り込んでいく、あの一連のショットが目に焼き付いて離れない。そして、職業安定所に止まる不釣り合いな黒塗りのベンツ。どうやら、あの要塞は職業安定所としては機能しておらずただの溜まり場で、実際の仕事は暴力団が斡旋しているそうだ。そして、噂には聞いていた飛田新地も、実際目の当たりにすると立ち眩みがした。画力が強すぎる。通天閣、新世界などの歓楽街と一本道路は挟んだ先に西成がある。愛隣地区という名前のうすら寒さ。土地に長年染み付いた哀しみのようなものを歌いたい、という土井玄臣の眼差しを少しだけ共有できたような気がした。