青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

神聖かまってちゃん『8月32日へ』

8月32日へ

8月32日へ

8月32日、終わったはずの夏休みの次の日。つまりは終わらない夏休み。このアルバムに対して「ニート達の永遠に終わらない夏休みへといざなうアルバム」といった評をチラホラ目にしたが、どうにも違和感を覚えた。このアルバムに漂っているのは、むしろ“逃避”からの脱却であるように思えたからだ。私たちは生活していく中で、いつも二律背反な悩みに苦しまされている。「あの娘の事が好きだから、憎いし」、「会いたいけど、めんどくさい」だとか。神聖かまってちゃんのボーカリストは、男女の二律さえも嫌い、自身を「の子」と名乗り、女性の恰好をして、ボイスチェンジャーで声をいじくる。これまでのやり方や音楽性を変えずに売れたいけど、メジャーレコード会社にマネジメントしてもらうならば、変えなきゃいけない事もある。そういった一切合切に耐えられなくなり、傷つかないよう”夏休み”とか”炬燵”といった居心地のよい楽園に逃げこんでいたの子。しかし、今回のアルバムでは懸命にそこから抜け出す決意を歌っている。

歩いたら歩くだけ 死ぬ確率はあがる
歩かなきゃとりあえず 人間はみんな死ぬ
みんな死ぬよ あっさり死ぬよ 僕は頑張るよっ yeah!


「僕は頑張るよっ」

いけないな 何にも感じなくなってきた 
だから僕 外に出て傷つけにいこうかな
なんていけないな 何も感じなくなってきちゃ
だから今 外に出て 切なくなりに行こうぜ 


「26歳の夏休み」

8月32日へ』と題されたこのアルバムは自身を守り続けてくれた楽園(=8月32日)へのお別れの手紙なのではないだろうか。エモーショナルな衝動をコンセプチャルにまとめ上げた美しいアルバムだ。何より、楽曲が充実している。前述の2曲に「映画」を加えた3曲は今年のギターロック界における最も美しい楽曲と言っていいだろう。の子のソングライティングセンスを完全に甘く見ていた。とりあえず、我が国に現れた久しぶりのロックスターは、背負う覚悟をしたらしい。僕も頑張るよっ!