青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

東陽一『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』

酔いがさめたら、うちに帰ろう。 [DVD]

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西原理恵子の元夫の鴨志田穣アルコール依存症体験をベースにした作品。「好き、嫌い」「うれしい、かなしい」「正常、狂気」などの対する感情の狭間を丁寧に描いており、それを演じる浅野忠信永作博美が素晴らしい。胃の衰弱でカレーライスを自分だけ食べさせてもらえない、なんてのを見事にドラマに仕立てていく手腕も見事。永作博美のアシスタント役である市川美日子が浅野忠信のお見舞いのお弁当作りに当然のように参加している。そういうのがとてもいい。脇を固める役者陣も舞台出身の手練ばかり。画面にも奥行きがあって見ていて楽しい。



そして、この映画は「見ること」についての作品だ。冒頭、浅野忠信は居酒屋で合コンをしている女性を見つめてみるが、そのままぶっ倒れてしまう。戦場カメラマンであった、浅野忠信は「見ること」を行い過ぎ傷ついている。他にも、入院先で夜中に浅野忠信が翌日、体験発表を控えた光石研の練習に付き合ってあげるという、光の具合も素晴らしいシークエンスがある。ここで、カメラはスーッと看護師控え室に向かう。普通だと夜勤の看護師が2人の練習の様子を暖かい目で見つめる、なんていう陳腐な演出がされる事が多いのだけど、看護師は書類を作成しており、決して浅野忠信光石研を見ていない。更に、その翌日の光石研の体験発表を浅野忠信はベッドで二度寝してしまい見ないのだ。しかし、そんな「見ること」から逃れている浅野忠信を「見つめる」のが家族だ。余命を宣告された浅野忠信を遠くから見つめる永作博美。そして、キッチンで一人涙する永作博美を見つめる子ども2人。2人は、離婚の決定打となった浅野忠信の酒乱もしっかり目撃している。だからこそ、何度も挿入される別れ際、家族が振り返り手を振るというシークエンスはどうにも感動的なのだ。