青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ウェス・アンダーソン『ファンタスティックMr.FOX』


独創的なカット、素晴らしきファッション、小道具、音楽センスで映画好きのみならず幅広い層を魅了している彼の新作が2年遅れで公開される日本の現状を憂う。その待望の新作がストップ・モーションアニメーション(静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしカメラで撮影し、あたかもそれ自身が連続して動いているかのように見せる映画の撮影技術、技法<Wikipedia調べ>)と聞いた時は、どうなってしまうのか、と心配もよぎりましたが、いざ観終えてみればきちんとウェス印の押された納得の傑作。実写でなくアニメということで、いつも以上に創造者としての万能感と幼児性がほとばしっているのがよい。



では、ウェス印とは何か。上記に挙げた小道具や音楽のセンスももちろんなのだが、彼にとって映画を作るというのは「こうでなくはいけない」という重圧からはみ出してしまった者にありったけの愛を注ぎ、動かす事ではないだろうか。Mr.FOX達の泥棒アクション、バイクでの疾走、穴掘り横移動、スーパーマーケットのダンスなどのシークエンスに心躍る多幸感が宿っているのは、運動自体の快楽性はもちろんだが、重圧からの解放が描かれているからに違いない。そして、更に愛くるしいのは、「野生でありたい!」とわめくMr.FOXが上等な服を着て、ベラベラと人の言葉を喋っているという矛盾のバカバカしさだ。このウェス・アンダーソンの愛とバカバカしさで世界は少し変わるかもしれない。