青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

園子温『冷たい熱帯魚』


やはり触れずにはいられないのがでんでん演じる村田。散々色々な所で言われているんだろうけど、村田が凄いのは『ダークナイト』のヒース・レジャージョーカーや『十三人の刺客』の稲垣吾朗の松平斉韶と同等の狂気を纏っていながら、それが突き抜けたものでなく人のよさそうな下衆親父と分離せずに同列している点だろう。この村田の存在によって悲劇と喜劇が並行していくのもよい。悲劇と喜劇がうらっかえし、なんて事は太古の昔から言われ続けているけれど、意外と日本の作品にそれを体現しているものは少ない。あれほど松本人志だって口をすっぱく言っていたのに(しかし、彼もコントから映画に表現の場を移すと、それを体現できているかは甚だ疑問)。また、村田が社本(吹越満)に向けて放つ「俺をお前の親父と思え!」という言葉からも、これは父性や母性(黒沢あすか神楽坂恵の過剰なおっぱい!)へのコンプレックスの話でもある。更に言えば、母親犯し、父親殺しという神話に回収される物語だ。そして何よりも震えたのは、ジョーカーに手をかけることができなかったバットマンに対し、社本が行った決断。村田の狂気は社本に伝染した、かのように見えるがそうはならない。『ダークナイト』のその先はあくまで「焼け野原」である、という園子温の表現に打ちのめされた。必見。