青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

鈴木卓爾『私は猫ストーカー』


1カットの中に収められる情報量の多さ、豊かさ。たむらまさき素晴らしき哉。上から下から猫目線から何でもござれ。『ゲゲゲの女房』での雑巾がけと同様に素晴らしい星野真里の道へばりつきのバックショットでのお尻を見逃すな。こういった何気なく宿るエロス。


街の映画である。街の光、影、草、葉っぱ、風、坂、五差路、階段、歩く人、自転車に乗る人を見て欲しい。特に光と影。こんなに素晴らしく街に光が差す瞬間を何故撮れるんだ。自然光なのに。黒澤明が「雲の形が気に食わない」と何日間も撮影を止めたなんて話は有名だが、この作品にそんな猶予は許されていないはず。何でも1週間ちょいで撮ったとか。鈴木監督は映画に愛されているんだろう。そして、猫、猫、猫。猫が街と人を見ている。1つのショットでこんなにも人と街が有機的に絡ませる事ができるのか。菊池信之の音もやはり素晴らしい。音は後撮りだと言う。


猫ストーカーをするハル(星野真里)は自分で猫を飼っていない。それは何故か?とコメンタリーで矢口史靖(『ウォーターボーイズ』)は聞く。鈴木監督も原作の浅生ハルミンもそれは答えがらない。しびれを切らした矢口さんは「家で飼ってるのに、道行く猫を追いかけまわすと浮気っぽく映っちゃうからでしょ?」と。

鈴木「あー矢口さんはわかりやすい映画撮りますもんね」
矢口「はぁ?」

みたいなちょっとピリっとした空気が流れるのもおもしろかった。


ハルが猫を飼わない理由は、彼女が猫という生き物(そして人も)はずっと側にいるものでなく、「通り過ぎ去っていくもの」と考えているからだろう。行方不明になる古本屋の猫チビトモも帰らない。そして、唯一入るナレーション。

猫には知らない時間がある。人にも知らない時間がある。
私にもあなたの知らない時間がある。あなたにも私の知らない時間がある

そして、その「知らない時間」というのが赤に託されているのだ。林檎、猫の座る座布団、過去に恋人に贈った本、帰ってきた坂井真紀のコート。実に、あまりに、映画的ではないか。



星野真里、坂井真紀、江口のりこ宮崎将徳井優のといった役者陣の素晴らしさは言うまでもない。朝4時半に起きて、猫をストーカーするハルと鈴木(宮崎将)とが飲み会後の若者集団を隔てて出会うシークエンス。泣ける。はみ出し者同志の邂逅。ぜひ観て頂きたい作品です。