青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

井土紀州『犀の角』

うだつの上がらない日々を過ごしていた高校生・鈴江崇が住む町に、「カフ・サマージ」と称する宗教団体が移住してきた。謎めく教団の活動に、地元住民は警戒心を強めていく。崇の同級生らは、報酬と引き換えに嫌がらせを繰り返し、教団を町から追い出そうと躍起になる。仲間からの孤立を怖れる崇は、心ならずも嫌がらせに加担していた。そんななか、ひょんなことから崇は信者である少女ポーシャと交流を重ねる。

日本映画学校俳優科の実習制作を井土紀州が監督したというこの作品。このカフ・サマージというのはもちろんオウム真理教をモデルにしている。違和感が隣接することにより想像もしないところから悪意が増殖していく様も描かれていた。何よりボーイ・ミーツ・ガールの部分がよい。視線を合わせ、額を見せ合うことで、恋に落ちる。

交わりをしたならば愛情が生ずる。愛情にしたがってこの苦しみが起こる。
愛情から禍いの生ずることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。

ブッタの教えで、恋心という煩悩を消そうとするポーシャ。ラスト、少年はポーシャに本当の名前を聞く。「名前を聞く」という小さな運動がこんなにも瑞々しくドラマティックに描けるなんて。