青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』

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男女がキスをしている後ろで車が燃えている写真を見たんです。ラブストーリーでも男女だけで成立するわけじゃない。社会で起きている色んなことが作用するし、逆に男女の間で起きていることが社会にも作用している。

これは、是枝裕和との対談(『世界といまを考える 1』に収録)において坂元裕二が語った言葉だ。なるほど、近年の坂元裕二のテレビドラマは、ややもすれば社会派と呼ばれるような題材を常に取り入れている。『わたしたちの教科書』ではイジメ、『Mother』では幼児虐待、『それでも、生きてゆく』では少年犯罪、『最高の離婚』では離婚率の上昇、『Woman』では生活保護・冤罪、『問題のあるレストラン』では女性差別、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』では若年層の貧困・震災・・・作品によっては物語のバランスを崩すほどに過剰な負の描写に注力することもある。

ネロはお父さんもお母さんもいなくて、いじめられたり、だまされたりして、最後には死んじゃうのよ。犬も一緒に。何のためにこんな悲しいお話があるの?


それでも、生きてゆく

フランダースの犬』を読んだ少女の身体を借りて、坂元裕二は自身に問いかけている。何のためにこんな悲しいお話があるの?何のために書くの?坂元裕二がこの度献上した書籍『往復書簡 初恋と不倫』は、そんな自己言及への回答のような作品であるように思える。手紙やメールのやりとりだけで構成された物語。テーマは初恋と不倫。そういったトピックから連想されるようなトレンディでロマンチックな物語、はここにはなく、やはり世界の抱える”痛み”が描かれる。金槌を手にした少年の淡い初恋が陰惨な高速バス事故と結び付き、インモラルな不倫はロシアの自動小銃とアフリカの地雷へと拡散していく。この不帰の初恋、海老名SA/カラシニコフ不倫海峡という2編の物語は”たった一つのこと”を執拗に訴え続けている。何度も何度も言葉を変えて。

誰かの身の上に起こったことは誰の身の上にも起こるんですよ。川はどれもみんな繋がっていて、流れて、流れ込んでいくんです。君の身の上に起こったことはわたしの身の上にも起こったことです。

関係がないなんてことはないと思いました。

ありえたかもしれない悲劇は形にならなくても、奥深くに残り続けるんだと思います。悲しみはいつか川になって、川はどれも繋がっていて、流れていって、流れ込んでいく。悲しみの川は、より深い悲しみの海に流れ込む。

世界のどこかで起こることはそのまま日本でも起こりえる、と実証されました。メキシコで起きている問題は、日本の食卓に影響を及ぼすのです。

この世界には理不尽な死があるの。どこかで誰かが理不尽に死ぬことはわたしたちの心の死でもあるの。

それはつまり「わたしたちはこの痛ましい世界の一部である」ということ。この世界の痛みは、いみじくも全てが根底で繋がっていて、それに対して無関係でいることは誰にも許されない。かなたの地の戦争や地雷はおろか、すぐ隣にあるはずの、震災や貧困や差別にすら、「経験したことがないから自分にはわからない」と遠ざけてしまう。「実感が湧かない、共感できない、興味がない」と常に無関係や無関心を装うとする。そんな”わたしたち”に警鐘を鳴らす。

なぜ、わかろうとしないのだろう?
そこで傷ついているのは、すべて”わたしたち”だったかもしれないのに。

口にしてしまえば、まるで道徳の教科書のようなそんな指摘に、なんとか確かな重みと質感を宿そうと、坂元裕二は筆を費やしている。ここでの坂元裕二の態度から想起されるのは、やはり岡崎京子である。

わたしはどうしても、はじめのことに立ち返るのです。団地で溺れたわたしと同い年の女の子のこと。
わたしだったかもしれない女の子のこと。

坂元裕二は書き、岡崎京子は唯一の小説集の中でこう書いている。

いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。
いつも。たった一人の。ひとりぼっちの。一人の女の子の落ちかたというものを。
一人の女の子の落ちかた。
一人の女の子の駄目になりかた。
それは別のありかたとして全て同じ私たちの。
どこの街、どこの時間、誰だって。
近頃の落ちかた。
そういうものを。

そして、その小説集のタイトルである、「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」という感覚は、この『往復書簡 初恋と不倫』全体に貫かれている”うしろめたさ”のようなものとイコールであるように思える。

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね



坂元裕二は、悲痛な物語を書く一方で、「それでも、この世界で生きてゆくのだ」と思えるような喜びを書き足すことを忘れない。すると”悲しい話”は驚くようにクッキリとした輪郭を形づくり、生々しくわたしたちの心に訴えかけてくる。喜び、それは例えば、食べること。海老名サービスエリアのしょうゆラーメン、ぶりの照り焼き定食、トマトとバジルのイタリアンハンバーグセット、鯵の素揚げ、ポーク餅、冷凍チキン、バニラアイス、亀田製菓・・・と悲痛な物語の中で、必要以上に印象的に描写されていく食べ物の数々。『カルテット』において、”死“の存在を間近に感じながらも、かつ丼をモリモリと食べ、”生きていかなくちゃ”と決意した女たちを思い出すだろう。


もしくは、恋をすること、あるいは、言葉を交わすこと。この『往復書簡 初恋と不倫』は、通常の小説とは異なり、地の文がなく、全てが手紙もしくはメールのやりとりで構成されている。つまり、あの唯一無二と言っていい、坂元裕二の会話の感性がいかんなく発揮された作品であるのだ。どこまでも平行線を辿りズレながら、ときにカチリと噛み合ってしまう会話。すべてを分かち合ってしまったかのようなその交感に立ち会うこと、それこそ世界を生きる喜びと言えるのかもしれない。


そして、坂元裕二ファンとして見逃せないのは、この『往復書簡 初恋と不倫』には、これまで発表してきた連続テレビドラマ作品のマテリアルがそこかしこに散りばめられている点だろう。金槌を握った少年、ガストのハンバーグ、フレール・ジャックの鼻歌、ボーダーかぶり問題、公園のトイレの前で弁当を食べるOLなどなど、愛おしき登場人物たちの顔が浮かんでは消えていく。とりわけ感動的なのは『不帰の初恋、海老名SA』におけるこのくだり。

これから先、こんなに好きな人はもう現れないと理解していたからです。これから先、どんな出会いがあっても、どんな別れがあっても、どんなに長生きしてもこんなことはもう一生ないってわかったからです。そのくらい玉埜くんのことが好きでした。その気持ちは今も減っていません。増えてもいません。変わらず同じだけあります。これからのことも、これまでのことも全部その中に存在してる。そんなわたしの初恋です。


で、ここからが後日談です。わたしの初恋はどうなったか。わたしの初恋は、わたしの日常になりました。例えば長めで急な階段を降りる時。例えば切手なんかを真っ直ぐ貼らなきゃいけない時。例えば夜寝る前、最後の灯りを消すとか。日常の中のそんな時、玉埜くんと繋いだ手を感じているのです。支えのようにして。お守りのようにして。君がいてもいなくても、日常の中でいつも君が好きでした。

ここに息づいているのは、間違いなく『カルテット』における世吹すずめの魂であろう。そう、あの心震える8話だ。
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私の好きはその辺にゴロゴロしてるっていうか
ふふっ、寝っ転がってて・・・
で、ちょっと ちょっとだけがんばる時ってあるでしょ?
住所を真っ直ぐ書かなきゃいけない時とか
エスカレーターの下りに乗る時とか
バスを乗り間違えないようにする時とか
白い服着てナポリタン食べる時
そういうね 時にね その人が いつもちょっといるの
いて エプロンかけてくれるの
そしたらちょっと頑張れる

またしても、満島ひかりの言葉を思い出してしまう。坂元作品において、全ての人物は輪廻するように繋がっている。



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最近のこと(2017/06/30~)

土曜日。陽が出ていないけども、洗濯物は溜まっていく。仕方がないので近所のコインランドリーへ行き、乾燥機を回すことにした。コインランドリーって不思議な場所だ。ドラマが生まれる予感しかしない。生まれた試しなんてないのに。コインランドリーにおける”ドラマ”というと、『横道世之介』と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を思い出すのだけども、どちらも高良健吾だ。あと、乃木坂46「羽根の記憶」のMVの橋本奈々未も良い。
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コインランドリーで踊っている橋本さん、美しかったな。それで思い出したのは、乃木坂46の3rdアルバム聞いていないということ。『生まれてから初めて見た夢』というタイトルの良さに反比例して、シングルとカップリング曲を乱暴に羅列するアルバムという形態への愛のなさ。リード曲である「スカイダイビング」は申し分のない佳曲だが、最新シングル「インフルエンサー」があまりにもどうでもよすぎて、乃木坂の音源からすっかり気持ちが離れてしまい、購買に至らなかった。今、思えば「裸足のSummer」なんかは幾分もましだった。次のシングルがせめて「スカイダイビング」くらいいい曲であることを願います。乾燥機の待ち時間、向いの定食屋でチキンライスを食べた。ケチャップで粘度の増したお米とプリっとした鶏肉の食感のハーモニー。とても懐かしい気持ちになった。これは小学校から帰宅して食べる、土曜のお昼の味だ。松本にも相談してみる。
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カルヴィン・ハリスのニューアルバム『Funk Wav Bounces Vol. 1』が噂どおりに素敵でステレオでずっと鳴らしていた。

FUNK WAV BOUNCES VOL. 1 [CD]

FUNK WAV BOUNCES VOL. 1 [CD]

フランク・オーシャンとアリアナ・グランデの歌声、好きだ。コーネリアスのニューアルバム『Mellow Wave』も安いイヤフォンで聞くとあんまりピンとこないが、ステレオで聞くと痺れてしまう。
Mellow Waves

Mellow Waves

インタビュー読むと、息子と仲良し親子でほっこりする。結局「あなたがいるから」が1番好き。特に予定もないので、スーパーに買い物へ。サーモスのタンブラーが安くなっていたので購入し、ノンアルコールビールをチンチンに冷やして飲んだ。おつまみは自家製の梅味噌とマヨネーズに、きゅうりとキャベツ。本当は北海道物産展で試食した、イカの塩辛もテーブルに並べたかったのだけども、すごく高かったのだ。店のおじちゃん曰く、今年はイカが高騰しているようで、これから更に高くなっていくらしい。ビール(ノンアルコール)を飲みながら、Netflix是枝裕和『ゴーイングマイホーム』を最後まで観終える。
ゴーイング マイ ホーム DVD-BOX

ゴーイング マイ ホーム DVD-BOX

たまらなくおもしろい瞬間が多々あるが、ひどくまとまりに欠けた作品で、視聴率が低かったのはうなずける。でも、是枝監督にはまたぜひとも連ドラを手掛けて欲しい。是枝作品におけるYOUの演技は抜群に素晴らしいのだけども、あれはどこまで脚本でどこからアドリブなんだろう。今作における新井浩文といい、『海よりもまだ深く』における池松壮亮といい、是枝作品における”むやみやたらに気のいい後輩”との兄弟のような関係性は、監督の実体験でモデルがいるのだろうか。先日の是枝×坂元のトークショーによれば、YOUや小林聡美が演じる口やかましい”姉”は、自身の姉がモデルであるらしい。そう言えば、『海よりもまだ深く』では小林聡美阿部寛に「また家のこと書いたら、ぶっ飛ばすわよ。家族の思い出はあんただけのものじゃないんですからね」というようなナイスな台詞があった。


日曜日。雨の予報だったが、晴れ間が覗いていたので、チャンスだとばかりに、タオルやシーツの類をまとめて洗濯。都議会の投票行って、ミスドでモーニング。暑いのでアイスコーヒーにした。ホットだと無限におかわりができるのに、アイスだと氷で量を誤魔化された1杯のみなのは納得いかない。アイスは業務用のパックを購入していて、原価が違うからなのだろうけども、せめて1杯くらいおかわりOKにしてくれたら、夏場のミスドをもっと愛してしまうだろうな。新商品のかき氷「コットンスノーキャンディ 黒みつきなこ白玉あずき」がとても美味しそうだった。ミスドを後にして、電車に乗ってはるばる鶴見へ。駅からの送迎バスに乗り、「ユーランド鶴見」にチェックイン。
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周辺にスーパー銭湯的施設が3つ隣接するという激戦区で、最も渋い佇まい。内装も昭和チックで、客層も8割が高齢者である。そら、今時の若者たちは「RAKU SPA 鶴見」に行くだろう。なんせプラネタリウムつきの岩盤浴があるらしい。しかし、この「ユーランド鶴見」がいいのだ。サウナと水風呂が絶品、温泉もよし。黄土×ゲルマニウム鉱石を謳うサウナがまずもってグッドコンディション。温度計が示すのは90℃ちょっとですが、常にロウリュウされているような強烈な熱波を感じます。時計の進みが異様に遅く感じて10分入っていられない熱さでした。でも、それがたまらなく気持ちいい。そして、何故かほのかにいい香りがします。さすがマイナスイオンサウナ。そして、水風呂。調子がいい時は9℃といった1桁台を記録するそうですが、この日は12℃。それでも充分過ぎるほどにピシャリと冷える。これくらいの温度だとサウナ後であろうと30秒もすれば、手足から痺れてくる。でも、まだ身体の中心は冷やしたい。そんな時は、手足だけ淵に出してしがみつくように凌ぐのがいいでしょう。温度だけではなく、水量もジャブジャブで、とても気持ちいいです。塩素臭もなし。100℃から10℃への急下降、ととのってしまう。サウナと水風呂の関係性は、例えるならジェットコースターである。助走の上昇が長ければ長いほど、下降のスリルが増します。そして、休憩用の椅子や屋外には寝湯もあり。滝シャワーやほてりを冷ます低温温泉も気持ちいいです。風呂から上がりいざ食堂へ。お客さんがカラオケでド演歌祭り、染みる。そんな中、おじいちゃんと孫娘のむちゃくちゃキュートな『アナと雪の女王』の”ありのままの”デュエットに遭遇できて、ほっこり。まったくの他人である知らない爺さん、婆さんの人生が落とし込まれたような歌声を聞きながら、冷やし中華(ゴマダレ)を食べて、もう最高にディープリラックス。加齢臭に満ちた仮眠室でグッタリ寝込んでから、退館です。LINEクーポンを使えば、1000円もしないで1日いられるので、近場の方は「RAKU SPA 鶴見」のみならず、ぜひ。ときに、サウナのテレビで流れていた『陸海空 こんな時間に地球征服するなんて』の再放送がむちゃくちゃおもしろかった。”ナスD”というフレーズは何度もTLで目にしていたのだが、何のことやわかっていなかったのだけども、この放送を観て、もしかするとこの人のことかと気づけた。それくらい、ディレクターが演者であるU字工事を喰っていた。この日、ゴールデンタイムで特番が放送だったのだけども、帰宅までに間に合わず。無念。



月曜日。昨日、武蔵小杉の駅ビルに入っていた「メルヘン」でたまごサンドを買って帰ったので、朝ご飯として食べた。マヨネーズが少なめの薄味で、セブンイレブンのたまごサンドの方が美味しいではないか。「メルヘン」の良さはフルーツサンドに限るのでしょうか。今やっているセブンイレブンのくじ(700円以上買うと引けるやつ)は、久しぶりによく当たる気がする。しかし、「レモンで元気」やら「いろはす レモンと塩」など、レモン関係のものばかり当たるので、全部丸善の棚に積んで置きました。ときに、夏は汗をかくので塩分補給、ってよく見かける言葉で、それに特化した商品がたくさん出ている。しかし、いつもはあれだけ減塩だ、減塩だ、と叫んでいるのに、夏場に少し汗をかいたくらいで現代人の身体に塩分が不足するのか疑問ではないだろうか。絶対に騙されんぞ。とは言え、この日は最高気温35℃でとにかく暑い。そして、嘘みたいに湿気の強い日であった。前だとこういう日を「うえーサウナに入っているみたいだ~」とか言ったものだけど、今となっては、「サウナとか超いいじゃん!」となるので、新しい形容が必要だ。「水の中を泳いでいるみたい」ではポエミーが過ぎるし、うーん。とかどうでもいいことを考えながら帰った。

First Squeeze!(初回生産限定盤B)(2CD+DVD付)

First Squeeze!(初回生産限定盤B)(2CD+DVD付)

2年前に出たJuice=Juiceのファーストアルバム『First Squeeze!』をちゃんと聞いたらとてもよくて興奮した。6月に段原瑠々さんが新加入したのを知らなったので驚きました。
hiko1985.hatenablog.com
帰宅して、坂元×是枝トークショーのレポートを書き上げる。ややまとまりに欠けますが、手の震えと説得のくだりはお気に入りなので、ぜひ読んで欲しいです。ブックマークのコメントに、「坂元裕二twitterとかに書かないでと言っていた気がしたが、まあブログはいいのかな。 」と書かれていたんですが、それは「この部分はオフレコでお願いします」という言い方であって、全体のレポート禁止はこの日発されていないと思います。つーか、もしそう言ったなら、”ブログはOK”なわけないですものね。



火曜日。仕事後にタワーレコードでHAPPLEのニューアルバム『ハミングのふる夜』を購入。

ハミングのふる夜

ハミングのふる夜

大好きなバンドの待望の3rdアルバムだ。とびきりのポップソングとナイスな演奏(特にドラムが好きだ)が詰まっている。土曜日のザ・なつやすみバンドとのリリースパーティー楽しみだ。台風だったようで、天気は大荒れ。凄まじい雨音を聞きながら、家であだち充の漫画を読み耽る。
ラフ 1 (少年サンデーコミックス)

ラフ 1 (少年サンデーコミックス)

『ラフ』と『QあんどA』を読み終えた。やっぱり『ラフ』は最高。二宮さんはあだちヒロインの中でもトップクラスにかわいい気がする。『QあんどA』は佳作としか言いようがないが、『いつも美空』とかあだち充が稀に書くこういった異色SF作品もなかなか味わいがあるのだ。あだち作品は西武池袋線沿線の風景がわりとそのままトレースされて描かれていて、とても親近感を覚える。しかも、あだち充は30年来のスワローズファンだ。また、大泉洋あだち充の熱烈なファンと知り、嬉しくなってしまった。エッセイの表紙イラストもあだち充。2人の共通点は落語だろうか。ネットサーフィンしていたら、『熱中時代』というブログの「あだち去を数えてみた」という記事「あだち去(ざり)」を数えてみた : 熱中ブログ!に感銘を受けてしまった。“後ろ姿で、片手だけを上に上げ、もう一方の腕は降ろしたままかあるいはポケットに”、このあだち充漫画の頻出するキャラクターの去り際のポーズを”あだち去”と名付け、その登場回数を数え上げているのだ。素晴らしい!!!私もこういうことだけをして生きていきたい。
H2 (29) (少年サンデーコミックス)

H2 (29) (少年サンデーコミックス)

高校のクラスメイトに『H2』の29巻があれば5分以内に絶対泣ける、と豪語しているやつがいた。面倒くさいので誰も「じゃあやってみろよ」とは言わなかったが。その後、彼は売れないロックバンドのボーカルになったらしい。『H2』の29巻は確かに泣けるのだけど、読むと必ず彼を思い出してしまうのだ。



水曜日。仕事後に友人とびっくりドンキーでハンバーグカレーを食べた。ハンバーグカレーだなんて、すっごくバカみたいで童心に帰ってしまう。最近観始めた『フリースタイルダンジョン』の話ばかりしていた。コーネリアスの新曲歌いに行こうぜ、と言うので、カラオケに行くも入っていなかった。しかたないのでthe ARROWSを歌った。
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私たちの青春のバンドだ。インディーズの3枚もいいが、メジャーデビューして「イエスタデイワンスモアーズ」(名曲だぜ!!)とか「二人三月」あたりのシングルをリリースしていた頃とか本当にもう!解散はしていないが、ライブはまったくやっていないよう。復活ライブあったら、行きたい。「BGMの向こう側」とか「大脱走~虹色のアーチ~」とか聞いたら、泣いてしまう。帰宅して、坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』を繰り返し読み直す。ドラマとはまた違う凄みがあってゾクゾクしてしまう。むちゃくちゃ夜更かししてしまった。 



木曜日。案の定スーパー眠い。退社して、下北沢の駅前劇場で劇団かもめんたる『ピンクスカイ』を観た。うーん、何とも言えないな。台詞の鋭さや脚本の構成は心から素晴らしいと思えるのだけども、役者の演技が個人的にしっくりこなかった。あと、演劇として観るには演出が弱いようにも感じた。劇場の前方は段差がまったくない上に座席もギュウギュウなので、舞台上が人と人の隙間からしか観えなかったのが何より残念だった。舞台の端の方に行かれると何が起きているのか全然わからない。ここはほんと改善して欲しいものです。観賞前に食べた「珉亭」でピンク色の炒飯は美味しかった。ハムに着色した食紅だかで炒飯がピンクに染まっているのだ。ここで昔、甲本ヒロトがバイトしていたというエピソードは本当に最高だと思う。

帰宅して売野機子ルポルタージュ』1巻を読む。売野機子の漫画はどこがいいのかまったく言語化できないでいるのだけども読み続けている。欅坂46の「エキセントリック」のMVに痺れまくる。
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これ1本観れば、『残酷な観客たち』必要ないのでは。全員凄いが、とりわけ平手とぺーちゃんの表現力。庵野アニメみたいだ。



金曜日。仕事終えて、池袋「タイムズスパレスタ」をショートタイムでサクっと90分。サウナと水風呂は相変わらず高品質、しかし混み過ぎ。あんなに混んでいるなら、もっとこま目に清掃が必要なのでは。週末は避けた方が無難だ。サウナから上がって、「もうやんカレー」を食べて帰る。ヤクルトも山田が爆発して、快勝の雰囲気。最高の週末・・・と思いきや9回裏に小川が6点取られて逆転負け。これはもう歴史に残る負け方。本当にこの20年で1番ひどいチーム状態である。監督が辞めてどうにかなるとは思えないが、真中はここまでチームを崩壊させた責任は取るべきだと思う。しかし、HAPPLEのアルバム、本当に良い。
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あだち充『クロスゲーム』 あだちラブコメの"幽霊"という主題

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あだち充の『クロスゲーム』は何匹目の柳の下のドジョウなのか。連載開始当初の印象はまさにこれであった。国民的漫画となった『タッチ』、そしてキャリア最高傑作と言える『H2』、高校野球×ラブコメあだち充の鉄板とは言え、35年のキャリア(連載開始当時)を積みながらも、まだその金脈に挑み続けるのである。しかも、”幼馴染の死と甲子園”という『タッチ』のモチーフをそのまま踏襲して。*1

『タッチ』は和也が死ぬ前から、達也と南は両想いであったわけだけども、『クロスゲーム』において亡くなるのは、主人公と両想いのヒロインなのだ。より残酷。いくら物語にドライブをかけるためとは言え、その筆運びは鬼の所業、ゲスの極みである(とは言え、読むと泣いちゃうのだけど)。


ようは、あまりいい印象は抱いていなかったのだけども、実のところ『クロスゲーム』もまた傑作だ。

クロスゲーム 17 (少年サンデーコミックス)

クロスゲーム 17 (少年サンデーコミックス)

全17巻という『H2』のちょうど半分の長さで完結するタイトさも評価できる。もちろん、細部の充実という点では『H2』にはるか及ばない。野球描写は物足りなく、キャラクターの魅力にも欠ける。赤石と中西は立ち位置がダブつき、ライバルとして颯爽と登場した朝見水輝は作者に完全に持て余される。とりわけ、千田という三枚目キャラクターが『H2』の木根と比べられてしまうのが痛恨だろう。しかし、この『クロスゲーム』は、あだち充作品に通底している”幽霊的主題”の結実という点においてあまりに優秀なのだ。
QあんどA 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

QあんどA 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

クロスゲーム』と並行してあだち充は、死んだ兄の幽霊が弟に憑りつくという、まさに自身のモチーフそのものを物語に落とし込んだ『QあんどA』という作品を発表しているのだけども、こちらは気の緩んだ佳作に留まっている。


青葉:あの人が相手なら・・・許すってさっきワカちゃんがそう言ってたわよ。
コウ:おまえは”いたこ”か?

というやりとりがこの『クロスゲーム』においては登場するわけだが、まさに今作のテーマは”いたこ”なのだ。1巻の終盤で、主人公コウの幼馴染であるヒロイン若葉が水難事故で亡くなってしまう。その後、ヒロインの座は若葉の1つ下の妹である青葉に”タッチ”される。しかし、『タッチ』における和也と同様にして若葉もまた、姿を消しながらも、その存在は幽霊のように色濃く物語に残り続けることとなる。とりわけ、生前に何気なく交わされた姉妹の会話。

でも、(コウを)奪っちゃダメだからね。

その若葉の言葉は、青葉に”呪い”のようにしてこびりつく。コウと青葉は互いに惹かれ合いながらも、物言わぬ死者であるはずの若葉の存在が、2人を結びつけることを阻害し続ける。これがこの『クロスゲーム』というラブコメの”切なさ”の主軸だ。そこに、まるで若葉の生き写しであるかのような滝川あかねというキャラクターが登場する。それはもうあまりに唐突に。しかも、彼女が引っ越してくるのは、コウの家の隣である。

あかね:最初から樹多村くん家の隣に決まってたわけじゃないのよ。
コウ:へーそうなんだ。
あかね:その前にほとんど決まりかけてた場所があったんだけど、
    契約前に地主さんが脱税で土地を差し押さえられちゃって・・・
コウ:おやおや。
あかね:その次見に行ったとこは目の前で突然地盤沈下・・・
コウ:あらあら。
あかね:次の土地からは遺跡が・・・
コウ:はっは。
あかね:本当の話よ。
コウ:あーはいはい。
あかね:ね、誰かがあそこに引っ越すようにみちびいたとしか思えないでしょ?

“誰か”に導かれるように。とにもかくにも、あかねは死んだ若葉がそのまま成長したかのような存在なのだ。若葉を知り、あかねを初めて見た者は

幽霊もちゃんと年をとるのかなァ。

死んだ人間も年をとるのかなァ。

と一様に動揺してしまうほどである。あかねが若葉に似ているのはその容姿だけではない。何気ない仕草や物言い、考え方までそっくり。当然、あかねは”若葉がそうであったように”コウに惹かれていく。「コウ-若葉(故人)-青葉」という三角関係が、更に「コウ-あかね(≒若葉)-青葉」という複雑な様相を展開していく。しかし、彼女の役割は“いたこ”なのだ。

青葉:でも不思議よね。
コウ:何が?
青葉:世の中には似た人が三人いるとか言うけど、世の中広いし、
   そうめったに出会うもんじゃらないわよォ。
コウ:若葉がおれ達二人に言いたいことを伝えるために、
   あかねちゃんを導いたんだよ・・・きっと。
青葉:二人に・・・
コウ:時々やるだろ?あかねちゃん。若葉だったらきっとこう言うって。
   そんな時口調も表情も、まんま若葉なんだよなァ。

あかねは「青葉ちゃんには伝えてあげて。本当のことを」と、まるでそれが若葉の意志であるかのように、コウと青葉にまとわりつく呪いを、そっと剥がしていく。2人を正しい関係に導くために。



驚くべきことに、今作における”いたこ”の役割はあかねのみに託されているわけではない。例えば、月島家の長女である一葉が、自身の恋愛観を語る何気ないシーン。

別れたら忘れるの。
好きになったこと以外は—ね。

このような、一見あらすじから外れたような会話においても、まるでコウの呪いを解かんと、若葉が一葉の身体を借りて、語らせているかのようだ。他にも、”誰かの想いを引き継ぐ”という『タッチ』的主題でもって、多くのキャラクターが”いたこ”としての任務を全うしている。姉・若葉のコウへの恋心をシンクロさせていく青葉、怪我で選手生命が絶たれた兄の想いを背負いこみ甲子園出場にこだわるスラッガーの東雄平・・・そして、主人公コウである。実に多くの人々の”想い”を託されてしまういたこ体質なのだ。赤石が若葉に、東が青葉に、それぞれが果たせなかった恋心は、積もり積もってコウと青葉の関係に託される。また、野球においても、若葉と青葉の想いを身体に宿しているのだ。

東:おまえが背負うのは、亡くなった彼女が最後に見た夢と―
  公式戦のマウンドに登れないとわかっていながら、
  毎日毎日みんな以上の練習を続けるあいつの無念さだ。

コウ:あ、そうだ。おまえカットボールも投げられるんだよな?あとで教えろよな。
青葉:あのねェ!なんでもかんでもわたしから盗まないでくれる!
コウ:ケチケチすんなよ。
   おまえがおれの体を借りて投げてると思えばいいじゃん。


青葉:—なるほど、そういう手があったか。
東:あいつの足腰と肩の強さは投手としての理想だ。
  あいつの体を借りておまえも登るんだよ。甲子園のマウンドに―

若葉が見た”コウと赤石バッテリーでの甲子園出場”の夢。女性であるがために高校野球の公式試合に出場できないピッチャー青葉の想い。

純平:少しくらいプレッシャーを感じろよ。勝てば甲子園なんだそ。
   昔からああいう性格なのか?コウちゃんは。
青葉:いえ、昔はわたしに似てすぐ動揺する落ち着きのない男でした。
   あれはワカちゃんの性格です。

投手としての理想のピッチングフォームは青葉から、マウンド度胸は若葉から。”体を借りて”という言葉が本人の口から出ているように、コウはイタコとしてピッチングを続けるのだ。ちなみに主人公とヒロインが同じスポーツを志す、性差ゆえに断念されたヒロインの夢を託される、という設定は、『クロスゲーム』の前作にあたるボクシング漫画『KATSU!』での試みを、受け継いでいる。

KATSU! (1) (少年サンデーコミックス)

KATSU! (1) (少年サンデーコミックス)




そして、やはり今作におけるラブコメもまたあだち充の一流の省略と余白があり、”照れ”を根底とした粋な演出に彩られている。

青葉:好きなんだよね、あかねさんのこと。
コウ:ああ。
青葉:ワカちゃんとどっちが?
コウ:亡くなっちゃったやつとは比べられねえよ。
青葉:じゃ、わたしとは?
コウ:ウソついてもいいか?

読者は、この会話の結末を知らされぬまま、物語は甲子園出場を決める決勝戦へ。そこでコウは160kmのストレートを投げ、勝利を掴みとる。後に明かされる、上記の会話の続きはこうだ。

ウソついてもいいか?
甲子園に行く!160km出す!
―そして、月島青葉が1番好きだ—

すべてをウソとした上で、先の2つの公約を実現することで、最も伝えかたっかた言葉を”ほんとうのこと”にしてしまう。実にまわりくどいが、故にあだち充の書く野球にはドラマとエモーションが宿るのである。試合後の青葉とコウのやりとりもすごい。

青葉:あんたのことは大嫌いだって言ったでしょ!
コウ:ああ、知ってるよ。たぶん、世界中で一番
青葉:ずっとずっと、大っ嫌いだったんだから!
コウ:・・・知ってるよ。

まるで『ドラえもん』のひみつ道具”ウソ800”を飲んでしまったのかのように、気持ちとは逆のウソをつき続ける。もちろん、察しのいい登場人物たちはその真意を無言の内に読み取る。かたくなに真っすぐと”好き”と言わせぬそのズラしの中で、まさに胸キュンとしか言えぬ真っ当なラブコメが躍動しているのである。

*1:驚くべきことに2012年、あだち充は更に正当な『タッチ』続編である『MIX』の連載を開始する

坂元裕二×是枝裕和トークショー『ドラマの神様は細部に宿る』


坂元裕二是枝裕和、この字面の並び!!何度だって反芻したい。坂元裕二×是枝裕和トークショー『ドラマの神様は細部に宿る』に参加してきたのだ。”テレビドラマ”を語るにおいて、この上ない組み合わせを実現させた早稲田大学演劇博物館に溢れんばかりの感謝を。当初は300人収容の会場での開催予定だったのだが、予約が殺到し、急遽1000人収容の大隈記念講堂に会場を変更したわけですが、それでも収まりきらない需要。当日は中継映像を流す会場まで設置されていた。泣く泣く予約を諦めたという方もたくさんいらっしゃると思いますので、この日、会場を包んでいた穏やかながらも確かな興奮を伴なった”熱”のようなものを少しでもレポートできたらと。


トークショーは互いの作品の好きなシーンをスクリーンで流し、気になるポイントを質問するというシンプルなスタイルで進行した。クリエイター同士の質疑は非常に示唆に富み、刺激的でありました。まさに神様は細部に宿る。しかし、1時間半という尺の内のその8割が、是枝裕和から坂元裕二への公開インタビューに費やされることとなった。その事を終盤で坂元が指摘すると、是枝は「僕は(こういう場に)いつでも出てくるけど、坂元さんはなかなか出てこられないので」とまだ質問を止めようとしない。自らも国内を代表する表現者でありながらも、”1人の坂元裕二ファン”という姿勢を崩さない是枝監督が非常にキュートで、このイベントの心地よいトーンを形作っていたように思います。

登場

坂元裕二が関西弁で喋り倒す。*1インスタの投稿曰く、関西出身ではあるものの普段、関西弁は使っていないとのこと。この日は緊張を隠す為に”言葉の変装”をしていたそうな。一筋縄ではいかぬ、というのはこういう人に向けて言うのだろう。とにかく、作品から想起されるナイーブな青年(御年50歳だが青年という印象だ)というイメージを覆す、流暢なおしゃべりでもって、のっけから会場の笑いをとりまくります。その軽妙さに衝撃を受けてしまったので、ここだけは詳細に彼の言葉を再現してみたい。細かいニュアンスまでは自信がないのですが、かなり近い形で記録できていると思います。

坂元「この一ヶ月くらい、ずっと今日の為に是枝さんの映画とドラマとドキュメンタリーを観てきて、頭の中が是枝さんのことでいっぱいになって、「是枝さんのこと好きなのかな?」って、もちろん好きですけど、是枝さんのことしか考えられなくなって、ちょっとあかんなぁと思って、合間に『ファインディング・ドリー』とか挟んだりしたんですけど、その中にも是枝さん的な部分を発見してしまって。ちょっとズラさなあかんと思って『テレクラキャノンボール』とかも観てみたんですけど、これはもう是枝さん作品と言ってもいいんじゃないかと。」

ファインディング・ドリー』と『テレクラキャノンボール』と是枝裕和という結び方の絶妙さ。これは喋ることむちゃくちゃ練ってきたな、とほくそ笑みました。この後も、会場の規模について、学生への講義について、映画とテレビドラマについて、と話は弾んでいくのですが、割愛。1000人規模から更に中継会場まで設置されたことに対して、

坂元「まさか自分がライブビューイングされるとは・・・」

をキラーフレーズとして採録しておきます。ここから、『それでも、生きてゆく』『Woman』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』から是枝がピックアップしたシーンを流し、トークが進んでいく。その前にまず、個人的に「これを聞けただけで、もう充分だ」と思えたトピックについて記していきます。



瑛太満島ひかり

是枝「(瑛太満島ひかり)この2人は凄いお気に入りですよね?何が1番いいですか?声ですか?」


坂元「声フェチは間違いないですね。2人とも大好きで、でも”一緒にもういる”って感じなので、どこがいいってなかなか説明しづらいんですけど・・・どこなんですかね?もう家族のように思っています」

家族のように思っています!!これを聞けただけで、震え上がるような気持ちだ。『ミュージック・ポートレイト』の「妻夫木聡×満島ひかり」に関するエントリーでも触れさせて頂きましたが、満島ひかりもまた、坂元裕二もしくは瑛太に対して、

駆け落ちする覚悟でいます
一生一緒にやっていけたらと思います

本当に精神的な仲間
唯一無二の仲間

という強い言葉を残している。前述のエントリーと重複するのですが、まずその関係性を改めて、振り返ってみたい。『それでも、生きてゆく』の双葉役のオファーを満島ひかりに断れてしまった坂元は、普段は絶対にやらないという役者への直談判を試みる。観たわけでもないのに、私はこのエピソードを坂元裕二が書くラブストーリー同様にして愛している。

相当落ち込みました。そういうことをしたのは初めてですが、お会いして「とにかくいてくれないと困る。あなたじゃないと嫌なんだ」と。どうすれば出てくれるのかと焦り、25歳の女性を前にいい年して中学生のように手が震えて。「まずい。気持ち悪いと思われる!」って(笑)


坂元裕二インタビューより

余談だが、山田太一が『岸辺のアルバム』のキャスティングにおいて、八千草薫に対して、この坂元とまったく同じことをしていたというのを読んで、飛び上がるほど嬉しくなってしまった。そして、満島ひかりが一度断ったオファーを受け直した理由が凄い。

坂元さんが「いや、あなたが出ること以外僕は想定していない」って言って
こう ちょっと手がね、震えてて
それ見た時に
「あぁ私、この人と仕事・・・って言うか、
この人と人生の中で大きく関わらなければいけない」って


『ミュージック・ポートレイト』での満島ひかりの談話より

直接会いに来た熱意でもなく、説得の言葉でもなく、脚本のクオリティでもなく、坂元裕二その人の”手の震え”だと言うのだ。その”震え”を見て、満島ひかりは、自らの役者人生すら坂元に託してしまう。これを坂元ドラマと言わずして、何と呼ぼう。これは後の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』のトピックにも出てくるのですが、ここ数年の坂元作品において、”人を説得する”シーンというのは、言葉ではなく、本来、説得にはならないものを使って描かれてきた。まさにその試みを、自ら(無意識のうちに)実践していたのである。



それでも、生きてゆく

今作の3話を書いている時に東日本大震災が発生。「震災をはさんでドラマは変わったか?」という是枝の質問に、「全然意識しないで書いた。混ぜたらいけないと思っていた」と答える坂元だが、何年か経って思い返すと、このドラマに流れる緊張感は震災が関係していたのかもしれないとも語る。以下は軽くメモを羅列。

坂元「(脚本は)気持ち悪いんですけど、(役者の声を想定しながら)喋りながら書いていている」

坂元「最後どう落とすか自分でもわかっていなかった」


是枝「書き手が探っている感じが伝わってくる」


坂元「文哉は改心するものと思って書いてた。文哉が洋貴の前で改心して悔い改めるシーンも初稿で書いている。違うな、違うなと思いながら直していった」

是枝に、このドラマにおける被害者と加害者の描き方を賞賛されると、

坂元「被害者と加害者みたいのは、『誰も知らない』のYOUさん、色んなことに気付かされた。悪く書かれる役をYOUさんが明るくフラットに演じていらして。あの描き方を何度も反芻しながらやっています」

被害者が加害者に見えたり、加害者が被害者に見えたりする。これは最新作『カルテット』にも通ずる坂元作品のマナーのようなものだ。これはこのトークショーでは言及されていなかったのだが、『問題のあるレストラン』終了時に敢行された対談において(是枝裕和対談集『世界と今を考える 1』に収録)、是枝の口から

白か黒ではなく、グレーでいい

という言葉が発されていて、まさにそれが『カルテット』を生み出すきっかけになったのではないだろうかと推測される。


そして、そういった被害者と加害者の描き方が素晴らしいとした上で、やはり今作は瑛太満島ひかりという2人のカップルのラブストーリーなのだ、と是枝が指摘する。「あの2人が一緒に生きていけるのだろうか」というのが最も胸を打つと話し、5話から洋貴(瑛太)と双葉(満島ひかり)がラーメンを食べるシーンをスクリーンで流す。ここは個人的にも大好きなシーンで、すでに趣味で書き起こしてあったので、その一部を掲載させて頂く。

洋貴「あ、今何時すか?」
双葉「10時とか、10時15分とか」
洋貴「・・・電話」
双葉「あ、どうぞ、してください」
洋貴「いいすよもう、遅いんで」
双葉「したほうがいいんじゃないですか?10時だったらそんなに遅くないと思いますよ」
洋貴「お風呂入っている時間かもしんないし」
双葉「そんないやらしい想像しなくても、普通に・・・」
洋貴「いやらしい想像なんかしてないすよ」
双葉「いや、でも、照れてる感じで」
洋貴「いや、今はあれだけど、言ったときはしてないすよ」
双葉「今はしてたんですか?」
洋貴「お風呂想像すんのはいやらしいことなんすか?
人間誰でも入るじゃ…あれすか、遠山さんは、お風呂入んないんすか?」
双葉「あっ、深見さん、あたしがお風呂入るところ・・・」
洋貴「してません!」
洋貴が厨房へ
双葉「何で逃げるんですか」
洋貴「晩飯作るんすよ」


<中略>
以下、ラーメンを食べながら


洋貴「あ、じゃあちょっとだけ自分変えられるとしたらどこ変えますか?」
双葉「え、どこかな?どうしよう、フフ、ちょっと会話弾んじゃう感じですね」
洋貴「何、興奮してるんすか」
双葉「じゃあ、深見さんからどうぞ。」
洋貴「僕ですか?僕は・・・小さいことでいいんですよね?」
双葉「決めましたか?」
洋貴「カラオケ行かない?<間>・・・とか、人に言ってみたいです」
双葉「ちょっと何か、小さすぎません?それは」
洋貴「小さくないすよ」
双葉「私のはだいぶ大きいですよ、ちょっとびっくりしますよ」
洋貴「どうぞ」
双葉「(咳払いして)スプーン曲げられるようになりたいです、凄くないですか?」
洋貴「無理っすよ」
双葉「へへへ、え?何で?ラーメン食べてんすか?いや、あの、人が夢の話とかしてるときに、ラーメンのびるのびないの人はモテないですよ」
洋貴「モテたいとか思わないんで・・・そのうち、うまくいきますよ。さすがにスプーンは無理だと思うけど。辛いこと、色々あると思うけど、そのうちうまくいきますよ」
双葉「あれ・・・母の話とかの・・・聞いてました?」
洋貴「・・・」
双葉「ああ・・・なんかきょうは優しいなって思っていたら、そうか(涙をすする)・・・何かラーメン、久しぶりに食べるから」
洋貴「いつもこれくらいすよ」
双葉「いつもこれくらいだったらいいな」
洋貴「じゃあいつも・・・これぐらいの感じにしますよ」
双葉「あの、もう一回だけ言ってもらっていいですか?ラーメン食べながらでいいんで。今の、もう一回だけお願いします」
<洋貴、双葉の手を握ろうとするも、やめる>
洋貴「うまくいきますよ、遠山さん・・・頑張ってるから」
双葉「恐縮っす」

暗闇の中、スクリーンに映る『それでも、生きてゆく』というこの小さく儚いラブストーリーを、1000人で見つめる喜び。私はもう涙を堪えるのに必死でありました。ここには人と人がすれ違いながらも、懸命に繋がらんとする美しいエネルギーがあまりにも見事に記されている。また、このイベントを主催した岡室美奈子さんもエンドトークで言及されていましたが、この双葉の「スプーン曲げられるようになりたいです」という願いが、『カルテット』の魔法少女すずめに繋がっていることに気づき、思わず、息を飲んだ。満島ひかりが坂元のインスタの投稿に残した

坂元さんのドラマは、役と役が輪廻して繋がってきますね

という言葉を思い出してしまうではないか。


ちなみに、是枝が上記のシーンで好きなのは「ラーメン食べながらでいいんで」という台詞だそう。是枝作品も坂元作品も、登場人物が食べながら話すシーンが多い。久世光彦仕込みという田中裕子や樹木希林の物を口に含みながら喋る演技の巧みさについて、田中裕子が芦田愛菜にそのやり方を伝授したエピソードなども語られましたが、そちらもやはり『世界と今を考える 1』に収録されていますので、割愛。



『Woman』

是枝からの「『Woman』は『Mother』に続いて出演された田中裕子さんを書きたくて書いたのかなと」という指摘に、「それが全てではないが、田中裕子をどうか書けばいいかはプレッシャーだった」と坂元が答えるところから始まる。ここでの話題は、主に田中裕子と小林薫という2人の役者、そして向田邦子に。

是枝「田中裕子さんと小林薫さんというのは、久世(光彦)さんが向田邦子さんをもとに撮られたシリーズをご覧になっていたんですか?」


坂元「僕、テレビっ子じゃなかったので、昔は観てなかったんですけど、この仕事を始めてから向田さんのドラマをちゃんと観て、1番好きな脚本家ですし、唯一と言ってもいいくらい色んなこと・・・僕の目指しているところにいらっしゃる方。田中裕子さんと小林薫さんはそんな向田作品に出られていた方なので、身が引き締まります」

坂元裕二の1番好きな脚本家は向田邦子」という言説を取れただけで心から満足したお客さんも多いことだろう。『Woman』などは、是枝が指摘するように、田中裕子×小林薫というキャスティング、そして都電というロケーション含め、「向田邦子新春シリーズ」の『思い出トランプ』を参照しているように思う。スクリーンに流したのは6話から。小林薫

田中裕子と満島ひかりの前でへらへらできるのは俺だけだ

という名言も納得の、満島ひかりと田中裕子の重厚な演技合戦の中で、小林薫の軽さと巧さが光るシーンでした。そして、『Woman』という作品は、シングルマザーと生活保護もしくは難病といった強いトピックに引っ張られてしまうが、その実、真っ当なホームドラマであったことに気づかされた。縁側、ちゃぶ台、素麺とお稲荷さん、そしてミシン。



いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう

今作は、始まる前からプロデューサーとディレクターに「バッドエンドにはしない」と約束していたそうなのだが、執筆中に何度も「やっぱりバッドエンドじゃダメ?」と提案したという。こういった葛藤は『Woman』『問題のあるレストラン』からも続いていたようで、そこを経て『カルテット』という宙ブラリなサスペンスに辿り着いたという流れが美しい。映像で是枝が流したのは3話における、ライブハウスの音漏れを楽しむ音(有村架純)と練(高良健吾)のデートだ。このシーンで最後に音が漏らす「いつか・・・」という台詞が台本にないことを是枝が指摘。坂元曰く、「いつか・・・」の台詞は、5話を執筆した後に、差し込みを指示したものなのだそう。

坂元「5話で有村さんが八千草さんに「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」って言うんですが、”いつか”っていつだっけ?と思って、3話だ!と。撮影前だったので、”いつか”を3話に入れて下さいって、差し込みしました。」

この3話が2人(音と練)の1番幸せな時だとわかっていたので、本当はもっとキラキラした、月9的な花火やスキーのシーンを想定して、初稿では、東京湾に船で出て、夜景を眺めるシーンを書いていたそうだが、違うなと考えている内にどんどん小さくなって、ライブハウスの音漏れにまで小さくなった、と。


是枝はまた7話での練の祖父の買い物レシートを音が読み上げるシーンを「何を買ったかを読むだけですごく感情を掻き立てられる」と絶賛。また、資料的なものから感情を読みといていく手法を、『それでも、生きゆく』での検死調書、『問題のあるレストラン』での五月のレシピなどを例に挙げ、「最近の坂元作品に頻出する手法である」と指摘。どういったきっかけで取り入れた手法なのかを質問する。それに対して坂元は、”テレビドラマ”というものが

・学園モノにしても、刑事モノにしても説得スピーチが基本
・アクションがクライマックスにはならないし、説得で誰かの心が変わるというのが基本

を前提として、以下のように答える。

坂元「そういった説得のシーンをこれまでいっぱい書いてきたのだけども、最近は言葉で何を言われても人の気持ちは変わらない気がしてきて。色んな手を使って、言葉ではなく、その中にある要素・・・本来、説得にならないものを使って説得していくという手法を最近始めている」

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『カルテット』

是枝「非常にある意味チャレンジングなドラマ・・・色んな物が宙づりになりながら、何段階も変わっていきながら
最後までスッキリしない。それが嫌じゃない。ジャンルがわからないのが凄い」

と賞賛。この時代にどうやってこんな企画が通ったのか?という問いに、「プロデューサーとディレクターが頑張ったのがすべて」と坂元が答える。更に『カルテット』執筆に関する覚え書き。

・『Woman』が終わってすぐに、「次は松さん(松たか子)と仕事がしたい」と思っていた


・ちょうどその頃、プロデューサーの土井さん(土井裕泰)が「松さんとどう?」と仕事を持ってきたので、「松さんと満島さんで」と即答した


・TBSからは当初『最高の離婚』みたいなものを提案されたが、一度やったことはまたやりたくなかった


・試行錯誤している内に何も決めないまま書き始めて、最初に書いたのが唐揚げのシーン


・決めてたのは毎話違うジャンル、違うテイストにしようということ

スクリーンで上映されたのは3話の蕎麦屋のシーン。

松たか子蕎麦屋の内装と自分の衣装の色が被っているのを気にしていた
稲川淳二の怪談はこのドラマの為の新録
稲川淳二の怪談は、重いシーンを軽くする為(よくやる手法とのこと)

是枝が「向き合って喋るのを巧みに避けている」と指摘。しかし、このシーンにおけるすずめ(満島ひかり)が机から立ち上がって、水着のポスターの前で喋るというのは、脚本にはなく、満島ひかりのアイデアとのこと。

坂元「よそ見をしながら大事なことは相手の顔を見ずに喋る、というのはよくやっていて、それが満島さんの中にもあったのだと思う。満島さんは、書かなくても僕が書くようなことをやってくれる時があって。”相手の胸を叩きながら話す”というシーンを『それでも、生きてゆく』(瑛大)、『Woman』(田中裕子)と2回書いてるんですけど、『おやじの背中』という単発では、書いてないのに満島さんは役所広司さんの胸を叩いて喋っていて。そういう時は、書いたもんだと。歴史が書いたんだと思ってます。」

なんたる美しき関係性。ちなみに、4話でのすずめちゃんが履いていたスリッパを家森の楽器ケースの上に置いたりする仕草も、満島ひかりのアドリブだそうだ。『カルテット』に関しては、時間が足りずにここまで。是枝監督は聞きたいことがまだまだありそうだったので、後で色々質問したのだろうな。


この後、前述のように「僕もたくさん観て、たくさん抜き出してきたんですけど・・・この一ヶ月くらいノイローゼになるくらいに」と、坂元から是枝作品についての質問が始まるのですが、『歩いても歩いても』の1シーンのみで終了。こちらも色々聞いてみたかった。次はぜひ、ネット配信でたっぷりと。

*1:その声質とイントネーションはどことなくくるり岸田繁を想起させた

最近のこと(2017/06/23~)

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梅雨ですね。最近のことです。金曜日。週の仕事の終わりに、池袋から椎名町方面へと歩いた。梅雨らしい蒸し暑さで、汗ばむ。立教大学の裏側にある銭湯「あずま湯」へ赴いた。こぢんまりとしながらも、お風呂の種類が豊富で、地元のお客さんで賑わっていました。サウナは低温高湿のコンフォートサウナ。80℃を切っているくらいなのだけども、このタイプは長く入っていれるし、気持ちよく汗がかける。テレビで流れていた、元ドロンズの大島の人生の浮き沈みを眺めた。誰が興味あるんだよ、と思わず蒸気に向かって叫びそうになりました。しかし、サウナのテレビは本当に日テレかTBSだ。フジテレビが流れているサウナにお目にかかったことがない。銭湯を後にして、立教大学の部室棟を横目に見ながら、池袋方面に戻る。立教の池袋キャンパスを観ると、いつも柳町光男の『カミュなんて知らない』(2006)

カミュなんて知らない [DVD]

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という映画を思い出して、ドキドキしてしまう。ちなみに、周防正行の『シコふんじゃった』(1992)も池袋キャンパスで撮影している。「火星カレー」で豚と草のカレーを食べる。
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とても美味しい。池袋の美味しい店は実はだいたいイメージの悪い西口と北口にある気がしている。プロ野球中継を眺めていると、なんやかんやでヤクルトが4点差をひっくり返して逆転勝ち。うれしくなって、音楽を聞きながら数駅歩いた。せっかくお風呂に入ったのに、また汗をかいてしまったが、かまわないのだ。
Pure Comedy

Pure Comedy

いまだにFather John Mistyの3rdアルバムを夢中になって聞いている。歌詞をしっかり知りたいので、国内盤を買えばよかったと後悔。



土曜日。目覚ましで起きられず、昼前まで眠ってしまった。横浜に舞台を観に行く予定があり、時間がなかったのでお昼は駅前の「ココ壱番屋」で済ました。注文は豚しゃぶカレー+チーズだ!不用意に揚げ物を食べる気力がなくなった私にとって、マイベストココイチは豚しゃぶカレーだったのだけども、先日購入した『東京カレーマップ』のコラムに、「ココイチの豚しゃぶカレーにチーズトッピングが最強」と書いてあったので、さっそく試したわけです。チーズトッピングなんて美味くなるに決まっているわけだけども、それでも「これはいいぞ」と言いたくなる何かがあった。卓上のスパイスをドバドバ振りかけて食べよう。副都心線で横浜へのアクセスは格段に向上したわけだが、それでもやはり遠い。日本大通り駅で降りて、KAATでサンプルの解散公演(今後は松井周のソロプロジェクトになるらしい)である『ブリッジ』を観た。
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おもしろかった。これまでの作品のモチーフが散りばめられた自己言及に長ける、堂々たる幕引き。古舘寛治奥田洋平は何やら既にスターの貫禄。野津あおいの風俗嬢っぽい感じも素晴らしかった。ここに古屋隆太もいたのだから、サンプルは実に俳優に恵まれた劇団だった。松井周のソロユニットになると、また難解な方向に舵を切りそうで、心配である。せっかく横浜に来たので、「スカイスパ」にでも行こうか、と思ったが何やらすっかり疲れてしまい、まっすぐ帰宅。梅雨のせいなのか何なのかずっと気分がドンヨリしていて、溜息ばかりついていたのだけども、夜にテレビで『有吉の壁』を観て、少し救われる。チョコレートプラネットとシソンヌは最高だ。シソンヌじろうのスガシカオ、チョコプラの『半沢直樹』、そして和牛水田のX JAPANの「Rusty Nail」を原曲キーで歌いながら大根の桂剥き、は何度でも観返したい。


日曜日。昨日とは打って変わって早起き。6時に起きて、すぐさま電車で笹塚へ。「天空のアジト マルシンスパ」へチェックインし、早朝サウナを決め込んだ。雨降りの早朝、貸し切りでセルフロウリュウを楽しむ。テレビなし無音の室内で蒸気に包まれ、身体疲労と精神的モヤモヤが一気に吹き飛んだ。地下水汲み上げの水風呂もやはり気持ちいい。3回セット貸し切りサウナを楽しんで、ベランダで外気浴。食堂に降りて、焼鯖定食を注文した。鯖に脂がのっていてすごく美味しかった。食堂に貼られていたカレンダーがヤクルトスワローズのもので、今日が雄平選手の誕生日だと知る。少し仮眠をとって、再びサウナを3セット決め、神宮球場へ向かうことに。スワローズVSベイスターズのデーゲーム。サウスポー今永に手も足も出ず、先発石川は2失点に留めるも、ピリッとしない。更に中継ぎ陣が打ち込まれての、完封負け。面白いところのまるでない試合だった。ここ10年で1番チーム状態が悪い。いや、とにかくおもしろくないのが致命的だ。2013年も2014年も最下位だったが、打線は打ちまくっていて、お金を払って観る価値のある試合していた。せっかく動員増えたというのに、これではまたお客さんが減ってしまう。せっかくサウナでととのった精神はまた疲弊させてしまった。景気づけに中板橋のお肉屋さんでカルビとロースを買って、家で焼肉をすることに。自家製の秘伝タレで合えてから売ってくれるので、気に入っているお店だ。肉を焼いてつまみながら、是枝裕和『海よりもまだ深く』をNetflixで観た。
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改めて素晴らしい。昔の良質なホームドラマの質感。そして、西武線映画だ。西武線には是枝裕和あだち充の魂が根づいている!樹木希林の演技に泣く。樹木希林八千草薫吉行和子がいなくなってしまったら、おばあちゃん界に大恐慌が巻き起こる。



月曜日。散髪した。あだち充の『H2』を読み直して、沸々と沸き上がったものをエントリーにしたためた。
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6月は11本しかブログを更新できなかったが、これと『昼顔』のエントリーが書けたので満足です。『H2』は他のあだち野球漫画に比べると、野田・木根・柳が最高によく書けているのがでかい。佐川・大竹・島もいいし。あと、敵チームの広田なんかも実に滋味深い。そして、単純に野球の試合描写もあだち作品の中では断トツなので、最高傑作であるのは、もう絶対に決まりのことなのです。『ラフ』と『みゆき』を推す声があるのもわかるけども。そして、『H2』に強く、ロロの三浦直之のヴァイブスを感じた。確か数年前の『常夏』という作品で、『H2』のシーンを引用していた記憶があるのだけども、やはり好きらしく、「生涯で1番読み返した漫画」とつぶやいていた。三浦くんは”セカンドヒロイン”というトピックで『H2』を語っていて、なるほどロロ作品においては常に、望月綾乃セカンドヒロインとしての”哀しさ”のようなものを体現していたのではないか!あだち充熱の再燃は留まることを知らず、『クロスゲーム』『ラフ』『いつも美空』を現在読み直し中です。本屋で『HUNTER×HUNER』の最新刊を購入。

HUNTER×HUNTER 34 (ジャンプコミックス)

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噂には聞いていたが、まじでヒソカVSクロロ、何が起きているのか理解できなかった。理解しようという気になれなかった。『ドカベン』の土佐丸高校VS弁慶高校に感化されて書いたらしい。まじか。



火曜日。「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」超欲しい、と朝から思う。必要なものがだいたい入っている。しかし、国内版には『MOTHER2』が入らないらしい。あんまりだ。ついでに『ミッキーとミニー マジカルアドベンチャー2』も入れて欲しい。

ミッキーとミニー マジカルアドベンチャー2

ミッキーとミニー マジカルアドベンチャー2

お年玉で買って、おばあちゃん家で、兄弟やいとこ達と夢中になってプレイした思い出がある。『ぼくらの勇気 未満都市2017』に小原裕貴出演というニュース熱いぜ。やっぱり小原裕貴、大阪俊介、高橋直樹が至高。ちなみに伝説のジャニーズとハードル上がりまくっていますが、演技はめちゃ下手なので(だったので)ビックリしないでくださいね。小原裕貴主演映画『ガラスの脳』を君は観たか。本屋で坂元裕二の『往復書簡 初恋と不倫』を買って帰る。
往復書簡 初恋と不倫

往復書簡 初恋と不倫

非常に面白くて、お風呂で全部読んでしまった。脳内で高橋一生酒井若菜の音読で再生。でも、『不帰の初恋、海老名SA』の主人公は何というか、満島ひかりだった。『カルテット』のマテリアルと、『それでも、生きてゆく』のトーンがある。そして、この日は『デリバリーお姉さんNEO』の最終回放送日。最後のゲストが中島広希だったのは痺れた。今、改めて評価されて欲しい桜井玲香の個人PV『アイラブユー』であります。
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水曜日。この日は早稲田大学坂元裕二×是枝裕和トークショー。定時ダッシュを決めても、既に大行列で2階席の後ろの後ろでしか観られず。お二人はほとんど豆粒だった。せっかく頑張って平日10時に時間作って予約したのにな、という気持ちにならなくもないが、内容が素晴らしかったので、大満足。特にメモったりせず、ゆったり聞こうと思ったのだけども、周りがパソコンやらノートやら取り出しまくっていて、熱気に煽られて、結局死ぬほどメモりました。トークショー終了後、気候がよかったので、高田馬場駅まで散歩して、駅前に新しくできていた天ぷら屋「えびのや」で夏の天丼を食べました。関西では人気のチェーンで、東京の一号店らしいです。「てんや」より位の少し高い感じがある。タレにごま油の香りがしっかりついていて、食欲をそそりました。帰宅して、録画してあった『テレ東音楽祭』をパーッと流して観る。SMAPの映像が結構流れていて、涙腺にきた。特に『愛ラブSMAP!』での「がんばりましょう」のパフォーマンス。



木曜日。最近やっと『フリースタイルダンジョン』を録画して観るようになったのですけど、この間の漢と晋平太むちゃよかったです。今週の「T-Pablowと書いてYoung Cashと読む、つまり若い金だぜ?」ってやつ、面白すぎて、何度も反芻しているんですけど、つまりはどういう意味なんですか。「晋平太と書いて晋平太と読む!」って返しも最高だったな。つまりどういう意味なんですか。仕事を終えて、大崎駅へ。アトリエヘリコプターで玉田企画『今が、オールタイムベスト』を観た。むちゃくちゃ面白かった!!また一つ、最高を更新したのでは。もう疑いの余地もなく、玉田真也は天才だ。玉田真也と書いて、Young Cashと読みたい。つまり・・・ときに玉田企画に出てくる役者さんは何故こんなにも上手に感じるのか。役者の力量なのか、演出の力か。お馴染みの男優人に加えて、スター投入という感じの宮崎吐夢でしたが、バッチリはまっていた。宮崎吐夢さん、久しぶりに観たけど、歳重ねてすごくセクシーになっていたな。普通に綺麗な女優さん使うところもニクいんだよな。あと、アトリエヘリコプターでこれまで観てきたどの舞台よりも美術が豪華でした。



金曜日。仕事終わりに大山でカレーを食べて、そのまま歩いて帰宅。着替えて、そのまま近所の銭湯へ。バッドコンディションな熱々のサウナと水風呂を3セット、血流をよくして肩凝りを解消。ヤクルトが阪神に勝利するも、リリーフエース秋吉が抹消。4番雄平も抹消し、過去に例を見ないほどに怪我人だらけ。これではプロの野球にならないのでは。藤子・F・不二雄を通じて魂の交流をさせて頂いているポニーのヒサミツさんが、『ドラえもん』のこのシーンをピックアップしていた。


私もこのシーン大好き!きんつばを食べる度に「このきんつばのうまいこと」と必ず言うのだ。帰宅して、もろもろの録画を消化。『ひよっこ』は峯田和伸フューチャー回。しかし、銀杏BOYZの新曲、チラっと聞いた感じまったくよくないというか、銀杏BOYZに憧れてまねっこしているバンドみたいなだったんですけど、気のせいかでしょうか。そうであって欲しい。
クロスゲーム 17 (少年サンデーコミックス)

クロスゲーム 17 (少年サンデーコミックス)

夜中まで『クロスゲーム』を読み耽って、涙していた。野球の部分が冴えないが、ラブコメとしては本領発揮しまくっている。『タッチ』の続編的作品をこれで飽き足らず、70歳目前にして『MIX』として書き始めたのも凄すぎる。もうすぐHAPPLEのアルバムが発売ということでむちゃくちゃ楽しみなのだ。
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