青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

江本祐介『ライトブルー』

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恋愛至上主義者やら恋愛ジャンキーなどでは全くないのだけども、誰かが誰かを好きになる、あの瞬間に発生する爆発的にロマンティンックなエネルギーのポジティブさに関しては全肯定していきたくって、いつだって誰もが誰か愛し愛されて生きていて欲しいと祈っています。しかし、人生はそんなにイージーではなくて、ときにはとてつもなく寂しい私たちだから、ポップミュージックは賑やかな場所でかかり続けるのでしょう。


人が恋に落ちる瞬間をはじめてみてしまった

というのは羽海野チカハチミツとクローバー』に登場する名台詞でありますが、その一瞬の(しかし永遠のような)のキラメキというのは一体どんな音をしているのだろう。なんてな問いにパーンと正解を突き付けてしまったのが、この江本祐介による『ライトブルー』という7インチレコードである。この僅か3分半のポップミュージックには、人が恋に落ちる瞬間というのがものの見事に真空パッケージされている。ライトブルー。そう、恋はみずいろ。


少しだけ、プレスリリース的な情報も添えておこう。表題曲の「ライトブルー」は、松本壮史が監督を務めた乃木坂46のキャプテン桜井玲香の個人PV『アイラブユー』(シングル『ハルジオンが咲く頃』のType-Bの特典に収録されています)において、やはり主人公が恋に落ちる瞬間に使用され、音源化を熱望されていた楽曲。みんな大好き、Enjoy Music Clubのトラックメーカー兼メインボーカリストである江本祐介(E)の初のソロ名義での全国流通盤になります。7インチレコードの形態での発売ですが、DLコードつき、配信販売もあり。これは本当にマストバイアイテムではないでしょうか。作詞には松本壮史(M)も大幅に参加しているようで、まさにEMCクオリティ。

あれからずっと3センチくらい
浮いてるよ ハロー ハロー
この声は風に乗って
一瞬で世界へ溶けるのかな

最高の歌詞ではないでしょうか。仮に恋に落ちた事のない少年も、すっかり恋の味を忘れてしまった中年も、完璧にその感覚を理解してしまうはず。世界に向かってハローなんつって手を振る、そんな感じ。

まだまだそんな君の事 知らないけれど
多分、きっと楽しいの連続だよ
昨日の月9の話とかしてさ
今夜の月も綺麗だね

そうだ、恋に落ちた僕たちは月9のラブストーリーの話で盛り上がらなくてはね。全てのラブストーリーはまた別のラブストーリーに繋がる。そこらへんについては、個人PV『アイラブユー』についてのエントリーに書いてありますので、ご一読をお願いします。他にも「ハルジオン咲き乱れて」といった乃木坂ファン号泣のフレーズも差しこまれていて、もういちいち全部が憎いほどに良い。独特な譜割りながらもキャッチーさをキープし続けるメロディーメイカ―としての才能、鍵盤やストリングスの音色から伺えるミュージックラヴァー感溢れるアレンジ力も、EMCの『FOREVER』含めて、改めて評価したい。


鮮やかな色した景色の中で
光よりも速く
僕らは走り出すのさ
未来へ向かって
ふたり踊ろう

この歌い出し一発でノックアウト。そのメロディーで景色は変わり、心臓が脈打つビートは少し足早に。それポップミュージックに求める事の全てが入っていやしないだろうか。安心なぼくらが旅に出る為の新しい決定打。なんたってB面には小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」のカバーも収録されている。この『ライトブルー』をポケットに忍ばせて、一歩踏み出そう。全ての事が上手くいくような、そんな気にもなるんじゃないかな。
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『おひさしぶりのジョンのサン(from名古屋)真昼のワンマン!」in 高円寺・円盤

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数えるほどしか名古屋に訪れた事のない私が勝手に考える三大”名古屋の至宝”、それは中日ドラゴンズ(荒木と井端の二遊間の頃)、コンパルのエビフライサンド、そしてジョンのサンである。ちなみに、三大から惜しくも漏れたのは味仙、ひつまぶし、K.Dハポン、金山ブラジルコーヒー、”愛知の星”こと諸星大さん、などです。



申し訳ありません。ジョンのサンのライブを観た、という事を書き記しておこうと思いつつも、どうにも言葉にならないので、余談で文字数を埋めようとしています。そう、ジョンのサンのライブを観たのだ。私の中でとても大切なバンドなのだが、2016年にもなって、やっとのことで初めてその演奏を生で聞く事ができた。久しぶりに訪れた高円寺・円盤。小さなスペースでのわずか1時間ほどのライブでしたが、本当に素晴らしい体験でした。狭いステージをメンバーがグルグルと回り、演奏楽器を入れ替えていく様は呪術的。いや、嘘です。それっぽい事を書こうとしてしまいました。呪術的どころか、とにかくカジュアル。ゆる~く、パートチェンジしていました。しかし、あの動線や歌割りの不思議さが醸し出す”シームレス”な感覚は間違いなく、ジョンのサンの大きな魅力であろう。



ジョンのサンの魅力を語るのであれば、言葉がいい、メロディがいい、声がいい(本当にメンバー全員が全員素晴らしいボーカリストであった)、と至極シンプルであるはずなのだけども、それでは何かとてつもない大きなものを語り落としているような気持ちになってしまう。例えばあの脱臼したようなバンドのグルーヴは?しかし、そこに触れ出すと、「ポップソングとは?」「芸術とは?」というあまりにも大きな問いにぶち当たってしまいそうで、躊躇してしまうのだ。とても手に負えない。だけども、そうすると、僅か数小節を彩る為に運ばれてきたラッパやヴァイオリンの”演奏できてなさ”、か細い指弾きの鍵盤の音色、ポータブルレコードプレイヤーから鳴るノイズ混じりのメロディ、そういった細部に宿るメロウネスはどこに行ってしまうのか。でも、やっぱり語りようがない。「万のスプーン、億のフォーク」(2015年の名盤『二人の先輩と一つのポリバケツのための小品』に収録)がかくも私の心を掻き毟るのは何故なのか。
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何故、フォークはスプーンよりも10,000倍も多いのか。わからないけども、好きなんだから仕方がない。



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最近のこと(2016/07/04~)

最近のこと。中学時代(すなわち15年くらい前だろうか)に絶大な人気を誇っていた優香や鈴木亜美が結婚したそうな。ビートゥギャザー。かく言う私はその2人にはさして興味がなく、好意を寄せていたのは乙葉菅野美穂だった。今思えば、非常にわかりやすい嗜好である。乙葉に関しては以前も書きましたが、教室の柱に『ヤングジャンプ』についていたポスターを貼って毎日拝んでいたので、信仰に近い気持を抱いている。現在の彼女が幸せそうで大変うれしい。菅野美穂も好きでした。テレビドラマの『アルジャーノンに花束を』(2002)

アルジャーノンに花束を DVD-BOX

アルジャーノンに花束を DVD-BOX

の頃の彼女が特に好きで、テレビの音声を携帯に録音して、次の日教室で流して友人と悶絶していました。今でも古本屋に行くと『NUDITY』 が置いてやしないか棚を確認してしまう事があります。発売当時の私は菅野美穂の存在を認識しておらず、憔悴した記者会見の様子をワイドショーで観て、「きみみたいにきれいな女の子がどうして泣いているの」と思ったそうです。




月曜日。夕方、強い雷雨が降った。会社を出る頃には止んでいたので、いつものように歩く。湿った地面から返ってくるモワっとした空気がたまらなく不快だ。家に着く頃には汗だく。汗だくとか汁だくの”だく”って何だろう。濁流の“だく”かな、と思いきや違うようだ。子だくさん、などにおける「沢山」の音が濁った”だく”らしい。そう言われてみればそうか、くらいの豆知識である。帰宅して、サバの缶詰ともやしと玉子をゴマ油で適当に炒めた料理を作って食べた。ちっとも美味しくない。しかし、これが私の調理力の限界。美味しいカレーが食べたい。実はとんかつよりカレーのほうが好きなのではないか、という疑念にずっと駆られている。小宮山雄飛のカレー本、買ってしまいそうだ。

これを読めば初心者でも簡単にスパイスからカレーが作れるらしい。ちなみにホフディランも好きだけど、ザ・ユウヒーズの1stアルバム『YUHI BEER』なんかは結構好きでよく聞いていたな。「信号」という曲がいいのだ。ブックオフなどで見かけたらぜひ。不味いご飯を食べながら録画しておいた『乃木坂工事中』と『欅って書けない?』を観た。これぞ、月曜日の幸福。高山さんの地元ツアー企画、素晴らしかったな。白石、西野、桜井、秋元、若月というロケメンバーも乃木坂の”良心”が集結したかのようでした。バナナマンへのお土産を説明する西野さんがかわいすぎました。ミスチルの桜井さんが乃木坂の「きっかけ」をライブでカバーしたらしいのだけど、すっごい彼が歌っている音が想像できる。コブクロじゃなくてミスチルで良かった。『欅って書けない?』のモノマネ企画、事故になるかと思いきや、芸達者揃いで楽しく観られた。『KEYABINGO』の記念すべき第1回はドッキリで、かわいそうだけどもかわいかった。「三四郎が番組MCを降板」というドッキリ、絶妙だ。サンド伊達さんのMCが間違いなさそうで安心。



火曜日。退社してタワレコくるりのニューシングル『琥珀色の街、上海蟹の朝』を買う。

初回盤には『TEAM ROCK』『THE WORLD IS MINE』再現ライブの音源が特典でついている。この2枚はまさに私の青春そのものであるので、迷わず初回盤を購入した。しかし、何はなくとも表題曲が素晴らしい。クリフ・アーモンドのドラムとストリングスが最高。ラーメンは1人で食べたいけど、上海蟹は貴方と食べたい。タワレコ池袋店の入荷日の混雑に向けたオペレーションが何年たとうとも進化せず、レジに大行列を作っている。どんなに客が並んでいようとも、店員はのらりくらりと特典を探し回り、「何かお持ちのクーポンはございますか?」だとか「ご一緒にポテトはいかがですか?」といったマニュアル通りの接客を止めようとしない。状況に応じた接客を教育して欲しい。店舗に足を運ぶ喜びなんてものも皆無であるし、ほんといい加減、ここでCD買うのを止めようかな、と思いました。雨が降ってきたので、電車で帰った。『有田ジェネレーション』を観た。「二の腕パンパンおじさん」に衝撃を受ける。
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これは時代を築きそう。どことなく、姫田真武的な才気を感じる。
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スワローズはベイスターズの山口(見事なピッチングだった)に手も足も出ず、完封負け。ぐぐぐ。むしゃくしゃしたままに、シネコンに『日本で一番悪い奴ら』を観に行った。これが大層おもしろくて満足。白石和彌と言えば、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010)という作品が当時まだ20代前半だった私の心に大変響いた事を思い出します。一緒に観た友人は映画にインスパイアされて「パラダイス」という曲を作った。僕は主演の女の人(内田慈さんだったのだ)の事を「きれいなしとだなぁ」と思った。何という大きな隔たり。彼ともすっかり疎遠だ。何の脈絡もないのですが、サカイさんという名字の人は「坂井」「酒井」「阪井」「逆井」「境」「堺」と漢字のバリエーションが豊富過ぎて、初対面の人に口頭で説明するのが面倒臭そうだなぁ、と思った。実際「あぁ、坂井なんだ。酒井っぽい雰囲気してるのにね」という会話をした事がある。その人とも勿論疎遠だ。



水曜日。電車に乗っていたら、今年から選挙権を得たらしい若者が、さっそく友人から公明党に投票するよう説得されていた。「~が無料じゃん?あれも公明党のおかげだから」という数多の説得で、すっかり彼は公明党に投票する気になっていた。「そもそも俺そういうのよくわかんないから、ウンコって書いて投票するつもりだったからさ」と、ジョークにしても糞つまらない事を大きな声で喋るその若者。いいカモと判断したのか、「公明党の母体はさ」と本気の勧誘が始まり出したところで、電車を降りました。そういえば、今井絵理子が政治利用されてるの嫌ですよねぇ。たかみなの未来という感じがより強まった。SPEEDはモロに世代なので最初のシングル4枚とかはむちゃ好きでした。特に「Wake Me Up!」は大好き。
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カップリングの「熱帯夜」もゲロゲロな感じでいいんだよなぁ。ちなみに「White Love」は聞くと受験勉強を思い出して気持ち悪くなります。この日は、近所の銭湯でサウナを楽しむ。週の半ばくらいに1回行っておくと、身体が凄く楽なのだ。家から1番近い場所にあるサウナが、利用者が少なくほぼ貸し切り状態なので寝そべって汗をかける。テレビではなく、70~80年代の歌謡曲が流れているのもいい。しかし、水風呂が23℃と温いのがどうしても厳しい。18℃とは言わないが、せめて20℃に下げてくれ、と店主に直接交渉しかねない勢いである。サウナから出たら、スワローズが大袈裟に逆転負けしていた。哀しい。昨年の劇的な復帰から今季再び腕にメスを入れた館山の復帰登板だったので、どうしても勝って欲しい試合だった。信じられない事に館山は昨年より格段に素晴らしいストレートを放り、変化球のコントロールも向上。しかし、続く久古が背信の投球。仕事場である左打者相手に3連打を浴びているようでは、ファームで再調整だろうなぁ。大引の欠場、山田の連日のエラーと不安要素がどんどん生まれる中、館山の復活、平井のパワーピッチング、西田の強打というポジ要素を胸に抱いて眠りにつきたい。



木曜日。仕事を追えて、ジュンク堂でカレーの本を立ち読みして、近藤聡乃『うさぎのヨシオ』を買う。

うさぎのヨシオ (ビームコミックス)

うさぎのヨシオ (ビームコミックス)

つげ義春に憧れる、うさぎの漫画家のお話。すんごい面白いではないか。絵は文句なしに素晴らしいし、ポップカルチャーへの愛に満ちている。Wikipediaを読んでいたら、近藤聡乃さんが私の好きな大木アナの同級生と知れました。何となくうれしいです。山川直人『珈琲色に夜は更けて シリーズ小さな喫茶店』も本棚に並んでいて、迷わず購入。山川直人さんの新刊が読める喜び。友人と友人の後輩と焼き鳥屋で飲んだ。その後輩は『HUNTER×HUNTER』に出てくる爆弾魔ボマーに似ていて、ぶん殴ってやりたくなる感じなのですが、久しぶりに会ったら、坊主になっていて、二等兵みたいでした。せっかくなので「戦争はもうこりごり」って何回も言ってもらいました。これが旅人さんの云う所の『兵士A』なのだろうか。多分絶対そう。スワローズは昨日と似たような逆転負けで、3タテ。もうほんといや。帰りの電車でチェーホフの短編「イオーヌィチ」を読んで興奮した。



金曜日。帰宅してシャワーを浴びて、渋谷に出かけた。ユーロスペースで『ひと夏のファンタジア』という映画を観る。
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はぁぁぁぁ、大傑作!アジアの新たな才能現る、だ。いかにも観る人は選ぶ感じの映画で、オススメはしないのですが、個人的には今年1番好きかもしれない。岩瀬亮という大好きな俳優が主演なのもうれしい。この人はとっととブラウン管で売れまくるべきだ(それこそ境雅人くらいには)。大満足でスクリーンを後にし、「嵯峨谷」でせいろを2枚食べた。夏の夜だ。



土曜日。雨なので洗濯できず。期日前投票を済まして、高円寺へ。円盤でジョンのサンのライブを観た。素晴らしかった!めったに観る事ができないので、1時間では物足りないくらいだった。ずっと聞いていたい歌心。渋谷に移動して、シネクイントでジョン・カーニー『シング・ストリート』を観た。
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当然それなりに面白いのだが、物足りない。過去2作のキラメキには到底達していないように感じた。『はじまりのうた』のが10倍好きだ。
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いや、曲とかいいんですけどね。画づくり、脚本、キャラクター、その全てが練り足りてないような。これ最高!と思った方は『青春デンデケデケデケ』という映画観てみて下さいな。

シネクイントは閉館らしい。サヨナラ!帰宅して、スワローズの試合をテレビで観た。由規の1700日ぶり(!)の一軍復帰登板。泣けた。結果的に負けましたが、戻ってきてくれた事が嬉しい。試合後、TSUTAYAで借りてきた武田鉄矢初主演映画『俺たちの交響曲』を観た。それなりに面白い。そういえば、この日1日で大橋先生と小山田圭吾を生で見かけたんですが、やっぱりそっくりでしたよ。今年はフリッパーズギターの2人を生で観る事ができた。



日曜日。朝起きて洗濯。かんかん照りなのですぐ乾く。お風呂の掃除も済ませて、いい気持ち。お昼ご飯に行きつけの中華屋で冷やし担々麺を食べる。

桜井玲香の『推しどこ?』 [DVD]

桜井玲香の『推しどこ?』 [DVD]

大好きな桜井玲香さんの『推しどこ?』を観た。はぁ、最高。自転車で少し遠出して初めて行くサウナへ。100℃を超えるストロングなサウナ、かつ水風呂の水質が大変柔らかく、でそそくさと整った。いい風呂でした。ヤクルトもドラゴンズに快勝。山田の通算100号ホームラン。めでたい。カレーを作って、選挙速報を観ながら食べた。うーん、のっぴきならなさは続くのか。

白石和彌『日本で一番悪い奴ら』

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素晴らしい。ススキノ青春狂騒曲、とでも呼びたくなるような古き良き日本映画のヴァイブスを発している。汚職、裏金、ヤクザ、チャカ、ドラッグ、セックス(所謂シャブマンだ!)etc・・・と題材はどこまでもインモラルでありながら、「友情・努力・勝利(そして敗北)」の三原則が貫かれたポジティブなエルネギ―に満ちた青春活劇に仕上がっているのだ。そんな二律背反とも言える奇妙なバランスを成立させてしまった主演・綾野剛の素晴らしさよ。岩井俊二の『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)での好演も忘れ難いが、また別のベクトルで突き抜けている。主観の心情が語られないイレモノのような男を演じる際、綾野剛は既にトップランカーの俳優である。女性を描く事への興味のなさ(キャスティングも一切“旬”ではない)は、前述の三原則を適用した『週刊少年ジャンプ』のバトル漫画のようでもあるし、北野映画のようでもある。対して、脇を固める男性陣は実に魅力的だ。中村獅童みのすけナイロン100℃)らのいぶし銀な演技が光る。デニスやTKOなどのお笑い芸人らの演技は悪くはないのだが、さすがに彼らは記号性が強すぎるので、多用するのは賛同しかねる所である。その点で、往年の北野映画における「たけし軍団」というのは希少な存在であった。



話が逸れてしまった。白石和彌の映画である。『凶悪』(2013)

凶悪 [DVD]

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と同様にして、史実である事が疑わしくなるほどに物語として面白い。「組織とは?」「正義とは?」というようなテーマを内包した作品にもなりえるが、白石和彌はそこにはフォーカスしていない。人と人が出会い、別れていく。その際に発される美しさと哀しさをカメラに収める事に固執している。つまり、人生賛歌である。そして、生きるという事を、”吸う(飲む)”と”吐く”という運動で描き切っている。


“吸う(飲む)”と“吐く”に関しての考察

喫茶店でスト―ローでもって「ズズっ」とジュースを吸うシーンが何度か挿入されていたはずだ。諸星(綾野剛)は酒が飲めない下戸であるから、宴においてもジュースを吸うのだ。諸星が初めてシャブの現物を確保する際を思い出しても、その発見は乾きを潤す為に水を飲む事(そして吐きだす事)によって為された。後に兄弟分となる黒岩(中村獅童)との出会いの場においても、諸星はどう考えても怪しい謎の薬を飲み込み、当然のようにそれを吐き出す。諸星が女性と行為に及ぶ際に、まず必ず行うのはその身体への執拗な”吸いつき”。他にも、ささやかな仲間内のパーティーで吸いつかれるカニの身、シャブ中毒者特有の口内の乾きを潤す為のペットボトルの持ちあるき、なども実に印象的な”吸う(飲む)”である。”吐く”において、とりわけ強調されているのは、悪の象徴のように吐き出される唾や痰だろう。初めてのシャブ注入時における、諸星の口からダラダラと吐き出される涎も忘れ難い。そして、諸星が悪の道へと突き進む事を映像的に伝えるアイテムとして使用された煙草もまた実に印象的に、吸って、吐かれる。吸って、吐いて、吸って、吐いて。その呼吸でもって、1人の男の業と捻じれた正義に満ちた人生を映画として描き切る*1。その人生は否定も肯定もされない。ただ、そこにあった純粋なるエネルギーが称賛されている。




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*1:彼の人生はまだ終わってはいないのだが

NHK『ドキュメント72時間』~鴨川デルタ 京都の青春~

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夜中にテレビを観ていて、ガツーンと衝撃を受けてしまった。NHKで放送されている『ドキュメント72時間』という番組だ。1つの場所を72時間定点観測し、そこを通り過ぎる人々をカメラに収めていくというドキュメンタリー番組。今回の放送でカメラが置かれたのは、京都の名所であり、地元の人々の憩いの場としても名高い「鴨川デルタ」である。


早朝、阪神大震災で妻子を失った日雇い労働の男性が川をじっと眺めている。その目には過ぎ去ってしまった日々が映っているのだろうか。元・水商売の女と元・不動産屋の男が”かつて”を語り合う酒盛り。どうしても(どうしてかはさっぱりわからない)娘と一緒に川の飛び石を飛びたかったという母とその姿をカメラに収める父。精神科で出会った妻の“かわいさ”をプロモーションビデオとして撮影する無職の夫。夜の鴨川で繰り広げられている学生達の大騒ぎ、それを対岸から羨ましさをひた隠しながら眺める女子校上がりの三人組。大好きなアニメ*1のロケ地として鴨川デルタに巡礼に訪れた男性。大学生活の4年間で、自分がどれほど鴨川にいるのかを記録する少年。周りに合わす事を拒否していた孤独な彼が、突如”気の合う”友達に出会う夜、その尊さ。学校が爆破予告されて休講になったから、と強い日差しの元で川遊びをする学生達。これがドキュメンタリーか。いや、“ドラマ”としか言いようがない。我々の想像をはるかに超える、壮絶で豊かな人生の断片の数々。カメラはそれらにことさらクローズアップするでもなく、そこらに転がる”当たり前のもの”として扱う。その何気ない態度が素晴らしい。始まりの気配だけを見せて、カメラはプイっと他所を向いてしまう。人生の断片が断片のままとして、京都の川の流れに消えてていく。私達は誰もが平等に、”誰にも知られない濃密な時間”を持っている。それを垣間見るというのは、「あなたは一人ぼっちじゃない」といような安っぽいポップソングを聞くよりもはるかに、どうしたって孤独な我々の心を慰めてくれる事だろう。




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*1:たまこラブストーリー』だそうです